「幅寄せ」はクルマにとって無意識でも、自転車乗りにとっては「切実に危険」と理解して欲しい

クルマのドライバーは自転車乗りがここまで恐怖を覚えているのを知らない

自転車で車道を走る際に怖いのが、クルマから猛スピードで脇スレスレを追い抜かれることだが、もっと怖いのが幅寄せである。自転車は車線が複数ある場合を除いて車道の左端を走ることとされているので、元より限られた空間を走っておりクルマが寄って来たら逃げ場がない。


▲先日のTwitterアンケートの結果でも圧倒的に「幅寄せ」経験の恐怖コメントが多かった

「教習所でキープレフトと習ったから、自転車がいても一向に構わず常に左へ寄って走るのが正しい」と思っているのなら、その走り方だと怖いと思う自転車が多いことを認識して、改めてもらいたい。
自転車で車道を走ったことのない人には理解できないこともあるから、知らないことは罪ではないが、自分で走ってみるとよく分かる。

すぐ真横を車が通り過ぎられると、生きた心地がしない
すぐ真横を車が通り過ぎられると、生きた心地がしない

結局のところ乗らなくても十分な想像力があれば乗らなくても分かるはずだが、無意識に幅寄せをしてしまっているドライバーがいるかもしれないから、念のため。

自転車を追い越すときの安全な車間距離の「世界標準」がすでにある

歩いている時に、いきなり横から不審者が寄って来たら誰だって驚く。クルマ同士で追い抜く際には十分な距離を取るのが当たり前なのだから、相手が自転車であっても同じように離れてほしい。できれば脇を1.5m離れて抜いてもらいたい。

それだけ離れれば、万が一自転車が車道側に倒れても車輪で頭を轢かずに済む。それともうひとつ。対向車が次々来て脇を1.5m離れて抜けない時には無理に追い抜かないでほしい。これを「思いやり1.5m運動」と呼び、10年ほど前から世界中で展開されている。

https://youtu.be/jZ7fMV7v_ME

▲「自転車はトラクターと同じくらいの速度、トラクターと同じくらい幅を空けて追い抜こう」という動画

日本では愛媛県を皮切りに各地で運動が始まったばかりだ。松山市内では既に伊予鉄のラッピングバスも走っている。

思いやり1.5m運動 出典:愛媛県公式

もしクルマのドライバーがわざとならば立派な法律違反となるって知っていますか?

もし無意識ではなく、「自転車に車道を走られると目障りだから圧力をかけて歩道へ押し戻そうと幅寄せしているのならば、これは立派な法律違反。道交法第2条二十二の進行妨害に当たる。個人的な感想だが輸入車オーナーに多い気がする。

https://youtu.be/zjmf-fjrnAw

▲最近では自衛のためドライブレコーダーを付けているサイクリストも多い。この動画のあと「交通暴力」を起こしたドライバーの会社は新聞などで徹底的に叩かれた。

自転車が嫌いなドライバーたちは自転車と呼ばずにチャリンカスなどと呼んで蔑むが、確かにカスと呼ばれても仕方がない乗り手もいるから全否定できない悔しさはあるものの、中には赤信号遵守をはじめ自転車ルールの趣旨を守って安全に運転している人も少ないが存在するのだから、一緒に括られるのには抵抗がある。

筆者もサンデードライバーとしてハンドルを握るから両方の気持ちが分かるけれども、クルマが車道の王様だと考えている人に多く見られる勘違いだ。弱者保護は強者の義務である。

2011年10月からは警察も自転車の車道走行を推進する立場に変わったし、2017年5月には自転車活用推進法が施行された。自転車の車道走行を推進する一連の動きを理解せず、クルマの既得権益を死守しようとしたところで流れは変わらない。

そもそも幅寄せは違反行為なのだから事故を起こせば悪意のある行為か少なくとも重過失という扱いになり、過失相殺の割合がドライバー側に極めて不利となる事態は免れず、リスクを冒して幅寄せしたって自転車を車道から締め出すことは不可能である。

最近では高齢者の免許証返納や若者のクルマ離れなどが顕著となり、今後もクルマは減って自転車は増える一方だから諦めて共存方法を探るしかない。

自転車で観光する外国人観光客が増えることで、「幅寄せ訴訟」も増える!?

将来にわたり緩やかに国民が減って行く過程ではクルマも減るが、自転車も減るのではないかって?
いやいや、既に多くの外国人が日本へ来て自転車で周遊している。自転車で日本を見て回る外国人観光客は増える一方なのだ。

現に京都でレンタサイクル業をやっている仲間が国内外からの観光客が多すぎて、さばき切れないと悲鳴を上げている。政府の計画では2016年に2,000万人を超えた外国人観光客を2020年には4,000万人へ、2030年には6,000万人まで増やしたいそうだ。物を作って輸出する産業スキームから観光立国へのシフトだが、うまく行くかどうかは分からない。だが恐らく、シェアサイクル中心に日本の免許証を持たない外国人たちの自転車が車道に溢れることになるだろう。

便利なシェアサイクルではあるが、新たな問題が生まれる可能性も
便利なシェアサイクルではあるが、新たな問題が生まれる可能性も

国際問題になるから、幅寄せどころではなくなる。欧米は訴訟社会だ。
加えて不安なのが世界の道路は右側通行が主流だということだ。自転車で逆走してしまう外国人が後を絶たないのではないかと心配している。警視庁は3カ年計画で都内にナビマークを1,000km設置する計画を遂行中だが、道路工事などで既にマークが消えている箇所も少なくない。

観光客の増加により、逆走車が増えるという懸念がある

少なくとも2020年までは確実に外国人観光客が増えることが見えているから、ドライバーたちは一様に覚悟すべし。わざわざ自転車に乗って観光しようと思う外国人たちは母国でもマナーの悪いドライバーと戦っているから手ごわいはず。

ドライバーだけの責任ではない。受け皿である車道の改革を

せっかく自転車レーンがあっても道路事情が・・・
せっかく自転車レーンがあっても道路事情が・・・

幅寄せが起きる背景には道路インフラも影響している。

縁石などで物理的に構造分離した自転車専用道路を走っていれば、クルマは近づけないから問題は起きないわけだ。ただ莫大な費用がかかるから国が率先して国道から順次整備を進めてもらいたい。

神奈川県の茅ヶ崎市を訪問した際、県道に専用レーンが整備されている箇所を視察したが、幅1m以上ある立派なレーンがあり中央線側にゼブラゾーンまで描いてある。構造分離での整備が予算的に難しければ、まずはクルマの走行空間をいじめて自転車の空間を広く取るところから始めたい。

3車線道路の第1車線を丸々自転車レーンにしたってバチは当たらない。例えば、ニューヨーク市のタイムズスクエアは、常にクルマが混雑する交通の要衝だったが、市役所のジャネット・サディク・カーン女史が大鉈を振るって大部分を歩行者天国に変更したところ、急ぐクルマはタイムズスクエアを避けるようになったので、心配された大渋滞は起きなかった。その他、車道上の駐車場を道路の中心に置き、建物側に自転車レーンを整備してクルマと離したところ、心理的な安心感が生まれて自転車乗りが増えた。

タイムズスクエアの歩行者天国 出典:real pubric estate

車道にメスを入れることを厭わなければ、やりようは幾らでもある。日本で自転車の走行空間について語ると、必ずと言っていいほど日本は道路が狭いから無理無理と言われるが、いずれクルマは減って行くのだから、いつまでもクルマのためだけに幅広な空間を用意しておく必要はない。
自転車の走行区間を明示して外国人や子どもたちにも理解できるマークや進行方向を示す矢印を大書した方がいい。

かつてクルマは偉かった

高度経済成長の頃には新3種の神器のひとつに数えられたし、バブル期にはBMW3シリーズやベンツCクラスが増殖して六本木タクシーと呼ばれたりもした。とにかく便利だから多くの国民が欲しがって次から次へと乗り換えて来たし、住宅と共に所有することがステイタスにもなった。

公共交通機関の脆弱な地方では一家で数台を所有して各自が個別に移動し、もはやクルマなしの生活は考えられなくなった。そうやって世界的に見ても過度なクルマ依存社会となった我が国。10社もの国産車メーカーが存在し続けられるほどの需要があった日本で近年、大小の歯車が逆回転を始めている。

所有から共有へ。右肩上がりから緩やかな下降へ。ただし決して斜陽ではない。ガツガツからほどほどへ。足るを知る境地へ。その過程に喜びや満足を見出す楽しみ。文化のレベルは間違いなく上がる。
仕事一辺倒だった生活から、やがて余暇の楽しみが生まれる。発想は豊かになり、より付加価値の高いサービスや商品が生み出されるだろう。

ステイタスシンボルだったクルマも近い将来見せびらかすのが恥ずかしくなるかもしれない。マウンティングは下卑た行為だと分かって実利を求めれば高級輸入車は背伸びであることが多い。
ガツガツしなくなれば運転に余裕が生まれ、道を渡ろうとしている歩行者を発見したら赤信号でなくても止まって譲る人が増える可能性だってある。そんな時代は決して悪くない。むしろスマートで格好いい。

車の所有がステータスシンボルの時代では無くなりつつある

成熟度が高まった大人の社会。いつか日本がそうなったら、昔はクルマが偉かったんだってねと笑い合う日が来るのではないか。「事故に遭ったと思って諦める」なんて言葉も死語になっているに違いない。
近い将来ハンドル操作不要の自動運転車が実用化されるだろうが、それが主流になれば幅寄せはなくなる。自転車も走りやすくなる。クルマと自転車を構造物で分離する必要もなくなるだろう。問題は、それまでだ。

そうは言っても最近優しいドライバーも増えてきたように思う

とは言え筆者が自転車通勤を始めた10年以上前は、今とは比べ物にならないくらい自転車の車道走行に対する風当たりが厳しかったことを思い出す。警察官は「おーい、そこの自転車! 歩道へ上がんなさーい」と叫んでいたし、トラックの兄ちゃんからは「コラー、車道走ってんじゃねー」と窓を開けて怒鳴られたし、信号が変わるや否や「邪魔だ退け」とばかりに、後ろのクルマからクラクションを鳴らされたこともあった。「ルール通り車道を走っているのに何で?」と思っていたが、心が折れそうになることも。

ここ数年で音を立てて、自転車を取り巻く環境が変化していることを実感する。今年、自転車活用推進法が施行され、来年には推進計画という魂が吹き込まれる。具体的に予算が付いて様々な施策(インフラ整備、教育・広報、取締り、観光振興)が動き出す。自転車から見る景色も間違いなく変わるはずだ。

先日、安曇野センチュリーライドのコースを走る機会を得た。地元の諏訪や松本ナンバーを付けたクルマは自転車に慣れてないせいか、すぐ脇を走り抜けて行くケースが多かったが、品川や相模、大宮といった首都圏ナンバーの車は大きく離れて抜いて行くケースが多かった。やはり普段から自転車との絡みが多いから慣れているのだろう。

ロード乗りがよく走りに行く伊豆大島の車は、抜く際に大きく距離を取ってくれる

幅寄せ問題もお互いの理解が進めば、近い内に解決できると思っている。何しろ40何年間も自転車は歩道通行がスタンダードだったのだ。我々は今、歴史転換点の目撃者になっている。後年、諸々の問題が笑い話になることを願ってやまない。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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