人命を奪う「ながらスマホ自転車」の危険性

こんにちは、FRAME編集部です。スマートフォン(以下スマホ)を自転車に乗りながらいじる「ながらスマホ」運転の危険性については過去にも取り上げましたが、先日起こった神奈川県川崎市での死亡事故を踏まえ、日本で一番自転車乗りの権利を考える*内海事務局長に寄稿していただきました。
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スマートフォンの一体なにが危険なのだろう?

▲川崎の事故では、ながらスマホに加え、加速が早い電動アシスト自転車だったことも重大事故に繋がった
▲川崎の事故では、ながらスマホに加え、加速が早い電動アシスト自転車だったことも重大事故に繋がった

「ながらスマホ」ですでに死亡事故が起こっている

 2017年12月、川崎市内で電動アシスト自転車に乗る女子大学生と歩行者との衝突死亡事故が発生した。特筆すべきなのは、この女子大生が「ながらスマホ」での運転をしていた点だ。電動アシスト自転車を発進させた直後に衝突。歩行者の女性は頭を強く打ち亡くなった。女子大生は2018年2月に「重過失致死」容疑で書類送検された。

画面に集中すると、視野は20分の1にまで狭まくなる

▲五感の87%を占める視覚は、減速ペイントなどにも活かされている
▲五感の87%を占める視覚は、減速ペイントなどにも活かされている

 自転車を安全に走らせるためには、五感を使い集中して運転する必要があるが、あるデータによると五感の内訳は視覚が87%、聴覚が7%、触覚が3.5%、嗅覚が1.5%、味覚が1%となっている。このことからも視覚から得られる情報が大半を占めていることが分かる。愛知工科大学・小塚一宏教授の研究によると、歩きスマホをすると視野が1/20になることが分かっているが、自転車の運転中にもスマホの画面を見ている人たちをよく目にする。一体何を見ているのか理解に苦しんでしまう。

片手にスマホは、ブレーキをかけられない状態を作り出す

▲スマホの確認は自転車を停車させ、周囲に危険のない状態で行いたい
▲スマホの確認は自転車を停車させ、周囲に危険のない状態で行いたい

 冒頭の事件当時、女子大生は左手にスマホ、右手に飲み物を持っていた。警察の取り調べに対し「衝突するまで気づかなかった」と話しているが、そもそも両手がふさがっており、歩行者の女性に気づいたとしてもブレーキをかけられる状態ではなかった。この行為は2015年6月の道交法改定で14項目挙げられた危険行為のうち「安全運転義務違反」に当たる。

 確実な操作をする上で当たり前の話だが、自転車に乗る際は両手に何も持たないことは当然。視野の観点からしても、スマホを自転車に固定して走る場合でも画面を注視しないことだ。これは自分自身を守るためでもある。

免許不要の自転車。「ながらスマホ」の刑事罰はどうなるのか? 

▲こんな子供にも免許が必要になる?
▲こんな子供にも免許が必要になる?

誰もが気軽に乗れる自転車だからこそ、難しい免許制導入

 これまで自転車は「何をやってもお咎めなし」という状態だったので、そもそもルールや罰則があることすら認識していない市民も多い。老若男女が免許不要で気軽に乗れるから、ルール周知がなければ自転車の事故は必然的に起きる。

「いっそ自転車も免許制にすれば?」という声は著名な学者を含めて実際に挙がっているが、子どもや外国人観光客の扱いはどうするのか?など、課題も多く現実的ではない。

悪質な自転車運転には、厳しい講習制度でまずは対処

▲ながら運転の典型。これは悪質で危険ではない?
▲ながら運転の典型。これは悪質で危険ではない?

 「安全運転義務違反」など悪質で危険な自転車運転者に対して、3年前より実施されている講習制度。この講習では、交通ルールのテストや被害者や遺族の体験談など、みっちりと約3時間の座学が行われる。このように免許制導入の前にやるべきことがいくつもあり、それらを実施した上で打ち手がなくなってから検討しても遅くない。

川崎の事故ケースの処罰はどうなる?

 川崎の事故では女子大生が重過失致死罪で起訴されたが、罰則が書いてある刑法第211条を読むと、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となっている。おそらく彼女に対しては執行猶予付きの実刑判決が出ると思われる。

自転車事故で人命が失われても重罰とならない、不条理なからくり

「故意」と「過失」の大きな違い

 人を殺せば殺人罪に問われるが、クルマや自転車で人を死なせても殺人罪になることは滅多にない。今回の「ながらスマホ」のように、その危険性が想像できる運転で人が亡くなったのに、なぜ殺人罪が適用されないのかと疑問に思われる方もいるだろう。

 刑法上の重要な問題に「故意」と「過失」があり、「故意」とは結果の発生を認識していながら行為に及ぶことで、罪を犯す意志がある状態を指す。一方の「過失」は結果が予測できたにも関わらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ることだ。

犯罪か事故かを判断する上での「未必の故意」

▲事故の場合、故意と認定することは難しい
▲事故の場合、故意と認定することは難しい

 では、どのような場合に故意、または過失だと認められるのか? その境界線として存在するのが「未必の故意」。ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでも構わないと考え、敢えて行為に及ぶ心理状態を言う。

 女子大生は100%老婦人を殺そうとして自転車を発進させたのか、単なる不注意だったのか。それとも死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが構わないと思ってペダルを踏んだのかということ。未必の故意があれば殺人罪となるが、今回は殺す意志がなく全くの過失なので、残念ながら殺人罪には問えない。

自転車は対象外となった「過失運転致死傷罪」

▲たとえ重い刑罰を受けても、亡くなった人は還らない
▲たとえ重い刑罰を受けても、亡くなった人は還らない

 残された遺族にすれば犯人が牢獄にも入らず、入ってもすぐ出て来ることは許せないだろう。クルマの事故に関しては罰が軽すぎるという声が大きくなり、過失運転致死傷罪を刑法と独立して規定したが、クルマとオートバイにだけ適用され自転車は対象外となっている。

【交通事故での刑の比較】

〈自転車が対象〉
根拠法:刑法第211条

業務上過失致死傷罪:5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金重過失致死傷罪:5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金

〈クルマと原付含むオートバイが対象〉
根拠法:自動車運転死傷行為処罰法(刑法から独立)

過失運転致死傷罪:7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金危険運転致死傷罪:過失運転致死傷罪の対象者にアルコールや薬物の摂取が認められた場合に適用。罰則は摂取後の影響度に応じて判断。人を負傷させた者は最長で懲役15年以下、死亡させた者は1年以上(最長30年以下)の有期懲役または15年以下の懲役

自転車にも厳罰を。乗り物を運転する覚悟を持とう

▲自転車による痛ましい死亡事故を増やさないために
▲自転車による痛ましい死亡事故を増やさないために

 今回のような事故が続くと、過失運転致死傷罪の対象に自転車を含めようという話になるかもしれないが、遺族の気持ちを考えると自転車事故も厳罰化した方がいいと思う。

 遺族にしてみればクルマやオートバイの事故と自転車の事故とでは何も変わらない。全ての人が免許のあるなしに関わらず、乗り物を運転する覚悟というか心構えを持たない限り、痛ましい事故は今後もなくならない。

 最後に、川崎の事故で妻を亡くした夫が取材に応じた際に打ち明けた思いだ。
「(ながらスマホ運転は)危ないし、何よりもやりきれない。先日、自転車に乗った若い男性を注意したんだけど、無視されました。家内の死は何の教訓にもなっていないのかと。“このバカ野郎”と叫びたい気持ちになります……」
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いかがでしたでしょうか。皆様の感想・ご意見はFRAMEのTwitterにお寄せ下さい。どうぞよろしくお願いいたします。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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