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パナソニックのクロモリ=パナモリ
パナソニックサイクルテックは軽快車から電動アシスト、ロードバイクなどを生産している国内自転車メーカーだ。1987年にマスプロメーカーとして初めてのオーダーシステムである「POS」(パナソニック・オーダー・システム)を確立。大阪・柏原市にある自社工房で、クラフトマンの手により一台一台受注生産を行なっている。
フレーム素材はクロモリとチタンがベースとなっているが、今回は「パナモリ」という愛称で親しまれる「POS」のクロモリ車を紹介していこう。
(※POSには競技用にトラックレーサーのフレームフルオーダーも存在するが、本稿ではカスタムオーダー車に絞って紹介する)
知られざる歴史
1952年、ナショナル自転車工業の名で設立されたパナソニックサイクルテック。パナソニックは総合電機・電気器具メーカーとして有名だが、実は創業者の松下幸之助は自転車店の丁稚奉公から職業経験を始めている。自転車には思い入れがあり、自転車本体、自転車用ライト、自転車用タイヤ(パナレーサー)などの分野に参入している。
世界のレースシーンで活躍してきた実績
1965年、その挑戦が大きく始動した。国際レース参戦にあたって、日本のトップレーサーをテスターとして採用。レースで闘いながら世界に通用するバイクの製作を志し、90年~92年にかけて、オランダのプロチーム「チームパナソニック」に機材を供給している。
そして1990年、ツール・ド・フランス初参戦にしてスプリント賞を獲得。同年にはパリ~ルーベ優勝にも輝いている。
ツールドフランスに使用されたパナソニックのロードバイクです。 pic.twitter.com/TZzIinMrKX
— サイクルショップカンザキ阪急千里山店 (@cskanzaki) 2015年12月16日
また1990年といえば、前橋で行われた世界選手権でヴィアチェスラフ・エキモフ(ロシア)が個人追い抜きを制したことも外せないだろう。
さらに翌年、翌々年にはツール・ド・フランスのステージ優勝を重ね、日本車としては初となるマイヨジョーヌ獲得という快挙を果たした。
その後はバブル崩壊などの要因で欧州トップレースに参戦することはなくなったが、国内シクロクロス選手権などでパナソニックに乗る選手たちが優勝を飾り続け、現在に至っている。
POS(カスタムオーダー)の特徴
世界に1台だけの自転車を!
パナソニック・オーダー・システム「POS」は1台1台ハンドメイドで受注生産される、あなたのための #スポーツバイク。自社工房で受け継がれる職人の技術をお届けします。https://t.co/l7y17UIMMt pic.twitter.com/fgUaTp3qLE— Panasonic Japan公式 (@Panasonic_cp) 2017年10月20日
パナソニックのカスタムオーダー「POS」にはどのような特徴があるのだろうか。
細かいサイズオーダーと特注カラー選択
第一に「POS」の利点はサイズからカラーまでオーダーメイドできること。特注カラーリング・システムは国内でブリヂストン・アンカーも行なっているが、フレームサイズは当初から決められているものを選ぶしかない。しかし「POS」では10mm刻みのフレームサイズ(一部除く)に対応し、ステム長、クランク長、スプロケ、ハンドルバーの幅まで、乗る人にジャストフィットする車体を作ることができる。
気軽にオーダーメイド気分を味わえる
第二の利点は、気軽にオーダーメイド気分を味わえること。よく「夢はオーダーメイド」という自転車乗りがいるが、フルオーダーメイドとなると高価になるし、それなりの経験と知識を身に憶えさせなければならない。また人気のあるビルダーに依頼すると時間もかかる。
その点「POS」ならば基本となるカスタムオーダー車が用意されており、その中から自分に合ったモデルを選択するだけでいい。スタイルと性能のバランスの良さで定評のあるパナソニックのモデルならば、お気に入りの一台を選び出すことが容易だ。
オーダーから完成までは約1か月
オーダーから出荷までの期間は約1か月。気の短い人でも、「オーダーメイドって意外と早い」と思ってしまう迅速さである。しかし、決して手を抜いているからではない。
こだわり抜いた素材を使い、熟練の職人たちが溶接と塗装を行なう。特に塗装技術は高いものがあり、一本一本を手作業で塗られるチューブは非常に丈夫。表面にフッ素加工を施すことで経年劣化や日射、雨風にも耐え、長い間フレームカラーを美しく保つ。
POSの流れ
パナソニック・オーダー・システムでカスタムオーダーする際の手順を紹介しておこう。
- まず、カスタムオーダー車からモデルを選ぶ。車種はロード、エンデュランスロード、シクロクロス、ツーリングの4種(計15モデル/チタン含む)が用意されている。
- モデルが決まったら「POS」ショップで身長、股下、腕長、肩幅を計測。そしてパナソニック・フィッティングスケールによりシートチューブ長、トップ長、ステム長、クランク長、ハンドルバー幅などを算出する。
- 次にフレームカラーを決める。選べるカラーは全33色。2018年からミラーカラー5色を追加(専用デザインのみ)。アップチャージでグラデーションなど、デザインも豊富な選択が可能。
- ロゴカラー、名前をプリントできる書体(英文5タイプ、和文1タイプ)を指定。
- バーテープ、サドル、ワイヤーアウターカラーを決めたら手順はおしまい。
POSのクロモリテクノロジー
■プレステージ
パナソニックがオリジナルブレンドさせた信頼の厚いクロモリ素材。化学成分、機械的処理、そして熱的処理——鋼の強さ、硬さに影響を及ぼす3つのファクターを絶妙にコントロールしたチューブである。軽さと優れた抗張力、剛性を実現している。
■インテグラルヘッドラグ
ダンシング時の加速力を高め、ダウンヒルでの安定感を発揮するオリジナルラグ。シールドベアリングを直置きするヘッドラグは、高精度な加工技術と繊細な低温銀ロー付け溶接を必要とし、匠の技なしでは実現できない機構となっている。
■低温銀ロー付け溶接
世界一過酷なパリ~ルーベの石畳、またツール・ド・フランスでの信頼と戦績から見いだした理想の溶接温度は650度。温度管理が極めて難しい低温ロー付け溶接というハードルを克服し、プレステージチューブの性能をフルに引き出すことに成功している。
■ロストワックス3Dリッジラグ
FEMによる応力解析をラグにも適応し、その形状、肉厚を最適化。また、薄肉の高性能チューブと同時使用することにより、軽量化と剛性のグッドバランスを生み出している。
■ダブルバテッドチューブ
トップ、ダウン、シートの各チューブは、力のかかる両端を厚く、中央部を薄くするダブルバテッド加工を施されている。軽さと高強度、高剛性という相対する課題をクリアし、優れたバランスづくりに貢献している。
■ロストワックスエンド
剛性と精度が高いロストワックス製法なので、車輪を組み付けた際に路面を正確にトレースできる。またエンド当たり面をメッキにすることで、ハブのロックナットによる傷もつきにくい仕上げになっている。
■ロストワックスクラウンCr-Moフォーク
太いカーボンフォークが主流の中、Cr-Moフォークは一見すると華奢に思われるかもしれない。しかし、しなやかすぎず、硬すぎず、十分な剛性を持つ。ロストワックス製クラウンと滑らかなカーブを描くテーパーチューブは振動吸収性に優れ、ニュートラルで流れるような乗り味を実現する。
カスタムオーダー車ラインナップ
それではいよいよ実際のラインナップを見ていこう。クロモリの美しさが光るモデルばかりだ。
ORCC01/FRCC01
速いマシンは美しい。モータースポーツ界でよく使われる言葉こそ、この「ORCC01」にふさわしい。バイクの美しさはバランスが取れていることを意味する。焼き入れ温度まで特注したプレステージチューブ、応力解析により設計された3Dリッジラグを採用。高剛性・軽さ・しなやかな乗り味を併せ持ち、均整のとれた美しさを獲得している。
フレームセット価格:
135,000円(税抜)~
完成車価格:
290,000円(シマノ・アルテグラ/税抜)~
245,000円(シマノ・105/税抜)~
サイズ:
460~630mm(10mm刻み)
ORCC11/FRCC11
フレームとフォークの一体感でバイクの性能は決まる。本機は「インテグラルヘッドラグ」によりヘッドラグからフォークへの流れるようなラインが剛性感を引き上げ、スチールモデルの新たな可能性を生み出した。チュービングには粘りのあるカイセイ8630Rと軽量なカイセイ017をミックスで採用し、高剛性でありながら絶妙なしなやかさを持たせている。
フレームセット価格:
200,000円(税抜)~
完成車価格:
385,000円(シマノ・アルテグラ/税抜)~
340,000円(シマノ・105/税抜)~
サイズ:
460~610mm(10mm刻み)
ORCC21/FRCC21
一見クラシカルなバイクに見えるが、レースで十分に闘えるスチールバイク。クロムモリブデン鋼にニッケルを加えることで粘りを持たせたチュービングで、粘りは時に硬く感じるかもしれないが、薄肉化することでしなりを持たせ、絶妙なバネ感を発揮する。また、安定感と振動吸収に優れたオーバーサイズ・ステムのオリジナリル・カーボンモノコックフォークを採用。フレームセットでは、電動シフター・シマノDi2専用フレームが選択可能となっている。
フレームセット価格:
145,000円(税抜)~
完成車価格:
313,000円(シマノ・アルテグラ/税抜)~
268,000円(シマノ・105/税抜)~
サイズ:
460~630mm(10mm刻み)
ORCC31/FRCC31
前三角に28.6mm径のスタンダードなクロモリ・ダブルバテッドチューブを使用。しなやかさと適度なバネ感を与え、クロモリ特有の気持ちいい加速感を味わえる。エンドには強固なロストワックス・ストレートドロップエンドを採用。また、細身のフレームとクロモリフォークにより、路面からの振動を和らげてロングライドを快適に楽しめる。
フレームセット価格:
110,000円(税抜)~
完成車価格:
228,000円(シマノ・105/税抜)~
サイズ:
430・460~630mm(10mm刻み)
FRCC41
クロモリ特有のしなやかさ、快適性を多くの人に体験してほしいという思いから生まれたフレームセット。安定性重視の低重心ジオメトリーにより、ロングライドを快適に楽しむことができる。シートステーとリヤエンドにキャリアを取り付けられる台座を標準装備しているので、一泊二日程度のショート・ツーリングにも対応する拡張性の高さも魅力だ。
フレームセット価格:
75,000円(税抜)~
サイズ:
430・460・480・510・530・550mm
ORCD04/FRCD04
安定した制動力を持つ機械式ディスクブレーキを搭載した、ロングライド専用設計のエンデュランスロード。ブレーキング時に後三角にかかる大きな応力に対する剛性を確保したロストワックス製のオリジナル・ディスクエンド、低重心ジオメトリーによる優れた走行安定性と剛性のバランスに優れたクロモリ・プレステージチューブを採用。28Cサイズのタイヤまで装着できるので、荒れた路面を走るグラベル系にも対応する。
フレームセット価格:
145,000円(税抜)~
完成車価格:
317,000円(シマノ・アルテグラ/税抜)~
283,000円(シマノ・105/税抜)~
サイズ:
460~610mm(10mm刻み)
OCXC06/FCXC06
クロモリ・プレステージチューブの特徴を活かしたシクロクロス車。細身ながら芯のあるバネ感を持ち、やや重めのギヤを踏み込んでいくと気持ちよくスピードが伸びる。ロストワックス製の3Dリッジラグやディスクエンド、53mmオフセットのディスク専用カーボンモノコックフォークを採用。フレームサイズは430mmから選択できるので、ジュニアから大人の選手まで幅広いレーサーに向けられている。
フレームセット価格:
150,000円(税抜)~
完成車価格:
308,000円(シマノ・105/税抜)~
サイズ:
430・460~610mm(10mm刻み)
FCXC16
トラディショナルなスタイルを好むシクロクロス・ファンの要望に応え、カンチブレーキ仕様のモデルを復刻。少しクイックに味付けされたハンドリングにより、高速状態から最小限の減速でリズムセクションに入っていけるジオメトリーだ。電動コンポーネント・シマノDi2専用フレームも選択可能。
フレームセット価格:
140,000円(税抜)~
サイズ:
460~610mm(10mm刻み)
OJC4/FJC4
旅先でのタイヤのトラブルに対応しやすいように、MTBと同じ規格の26インチタイヤを履いているツーリング車。ハードなアドベンチャーライドにおいて、フレームにトラブルを負ってしまった場合もクロモリならば一時的な修理レベルの溶接ならば各国可能。ダブルバテッドチューブを採用した快適な走りや耐久性は、多くのサイクリストによって実証済みだ。
フレームセット価格:
115,000円(税抜)~
完成車価格:
170,000円(シマノ・クラリス/税抜)~
サイズ:
460・510・550mm
FSS7
クロモリ・プレステージチューブとロストワックスラグを採用したスポルティーフモデル。キャンピングなどハードな使用を前提にしたランドナーに対し、スポルティーフは快走を目的としたサイクリング車である。元々はブルベなど制限時間のある長距離走破のために発展。本機はランドナーより重量が軽くて軽快に走ることができ、さらにロードバイクよりも車載能力が優れている。
フレームセット価格:
145,000円(税抜)~
サイズ:
460・510・530・550mm
まとめると
30年以上続く「POS」の歴史は、日本人による日本人のための自転車作りの結晶だ。そして90年代初頭、パリ~ルーベ、ツール・ド・フランスの厳しい闘いから手に入れたバランスの良さ。その経験を受け継いだ直系の高性能を持つモデルが揃っている。自分らしい個性的な自転車を一台欲しい……そう感じたら「POS」を検討してみよう。伝統を守りながら、さらに進化を続けるクロモリ・テクノロジーがあなたを待ち構えている。
Photos (C)Panasonic Corporation
LINK:Panasonic Order System