ねじ、ナメたことない? 正しい工具の選び方~ひとりで100㎞走るためのメンテナンス講座#07
初心者ライダーがひとりで100㎞ライドに出かけて問題なく帰ってくるためのメンテナンス方法を紹介する連載企画。続けて読んでもらえれば、ライド前に必要な準備はもちろん、ライド中のトラブルに対応/回避するために必要なメンテナンスの知識が身につくと思います。無事に100㎞ライドを終えたころには脱・初心者です!
バイクのためにも高品質な道具を選ぼう
この連載では、ここまで空気の入れ方、チェーン洗浄、そして出先でのパンク対応を紹介してきました。この三つのメンテナンス項目は、すべての自転車乗りが覚えるべき基本のスキルです。まだ自信がないという方は、バックナンバーを読み返してしっかりモノにしてください。
さて、ソロライドでは自力でトラブルに対処しなければいけませんから、ここから先は少々専門的であったり、希にしか遭遇しないケースも出てきます。その前にまず、自転車専用ではない一般的な工具の選び方と使い方を紹介します。
スポーツ自転車には「六角穴付きボルト」が多く使われています。これを締めたり緩めたりするには、自転車乗りの間では「アーレンキー」、一般的には「六角棒レンチ」や「ヘキサゴンレンチ」などと呼ばれる工具を使用します。家具の組み立てなどに使いますし、100均でも各サイズのセットが税込108円で買えてしまいますので、大抵の方は所持しているでしょう。携帯用のマルチツールなら持ってるよ、という方もいるかと思います。
ですが、高価なスポーツバイクにはそれに見合った工具を使ってあげましょう。安価な工具はボルトに傷を付けてしまい、繰り返し使うと壊れる可能性が高いです。また、収納性を優先した携帯用の工具は、微細なコントロールには向きません。確実な作業には、精度が高い高品質なツールが不可欠なのです。
特にアーレンキーは、コストをかける価値があるツールです。もっとも使用頻度が高いですし、ボルトの頭の外側に工具を掛けるスパナなどと比べると、ボルトの内側から回すアーレンキーはボルトの太さに対して工具自体が細くなるので、小さな部分に大きな力がかかるため、先端形状の精度や剛性などで品質の差が重要なのです。
アーレンキーには様々な形状がありますが、まずはL型のセット品を揃えましょう。よく使うサイズは4、5、6mmなのですが、1.5、2、2.5mmの小さなサイズや8、10mmの大きなサイズも出番があるので、これらを網羅した9本組みを選びます。垂直にアクセスしなくても回せる、長辺の先がボールポイント形状になってるタイプを選ぶといいでしょう。
メカニックに人気の海外メーカーで筆頭に上がるのが、スイスのPB SWISS TOOLSです。その中でも、ボール付ロングレインボーレンチセットが最高級品です。およそ9,000円と高いですが、デュラエースみたいなモノで、使ってしまえば「もっと良いものがあるのでは?」みたいな悩みとは縁が無い最終兵器的なツールです。ドイツのWera(ヴェラ) も人気があります。マルチカラーヘックスキーセットは先端形状に工夫があり、ボルトにしっかりと食らいつきます。僕は今、これを使っています。滑ってボルトの穴を舐めることはまずないので気に入っていますが、作りがしっかりしていてとにかく硬いので、特にビギナーの方には締めすぎに注意が必要かな、とは思います。
もう少し安価に済ませたいと言う方は、日本のKTCやSK11、VESSELのリンク先の商品を選んでもいいでしょう。KTCにはより高精度な商品もラインナップされており、自転車のメンテナンスにはこちらを推奨しています。はじめは安価に済ませても、あぶく銭が入ったときにでも高品質なツールを買ってしましましょう!
コツは垂直に差し込み、水平に回す
では、アーレンキーの使い方です。緩め始めや、締め付けの最後のトルクをかける場面では短辺をボルトに差し込んで使います。まずは、アーレンキーの先端をボルトの穴の奥までしっかりと垂直に差し込みます。小指が後端付近にくるようにしっかり握ってください。
そして、垂直の状態を保ったまま、水平に回します。工具の先端とボルトの穴は、点ではなく、面で接しながら力をかけていくイメージを持ってください。利き手で柄をしっかり握るとともに、ロングタイプのアーレンキーは、もう一方の手を添えるとより確実です。添えた手でボルトの穴に工具が底付きしている状態を保持し、そして水平に回っているかをチェックしながら、ゆっくりトルクをかけていきます。
ショートタイプのレンチを使うときは、親指をレンチの曲がっている箇所におき、両手の場合の添え手の役割を担わせます。長辺は柄を回転させて早回しができるので、トルクを掛ける必要がない場面で使用します。早回しをするときは軸がぶれないように必ず両手で行いましょう。
締めつけは最適なトルクで!
緩めるときは、奥まで差し込み、水平に回す、ということさえちゃんとできればいいのですが、問題は締め付けるときです。締め付ける力が足りなければボルトは緩んでハンドルやサドルなら動いてしまいますし、最悪の場合、パーツが脱落してしまうかもしれせん。それを恐れて締めすぎると、今度はパーツやボルトを壊してしまいます。この締めすぎが自転車のメンテナンスで一番注意しなければいけないポイントなんです。ねじを締める力、「トルク値」はほとんどすべてのパーツで指定されています。特にカーボンパーツを使用したバイクに乗っている方は、締め付けトルクを測定できる「トルクレンチ」が必需品です。簡易的ですが、購入しやすいタイプも各社から出ています。たとえばTOPEAKのコンボトルク レンチ&ビットセットのようなものです。トルクレンチの詳しい使い方は、いずれ別項目を設けて解説します。今回は、自転車のメンテナンスに適した工具と使い方を覚えてください。
出番は少ないですが、プラスドライバーも変速調整などで使うことがあります。ドライバーも汎用品ではなく、高品質なツールを1本は用意しましょう。1本ならばサイズは2番です。アーレンキーほど高くないので、PBやWeraなどの高品質な製品がお勧めです。みなさんも、これまでにプラスドライバーを使っていてねじの先端を舐めてしまったという経験があると思います。回し方のコツは、押す力7に対して回す力が3で力をかけることです。落ち着いて手の感触に意識を集め、ドライバーとネジを見ながら作業しましょう。これさえできれば、自転車のメンテナンスでネジを舐めることはほぼなくなると思います。
アーレンキーもドライバーも、高品質な道具を用意し、使うときはボルト類と工具ができるだけ多くの面で接触する状態で水平に回す、というのが最大のポイントです。くれぐれも締めすぎには注意してくださいね。使い終わった工具は汚れや水分が付いていたら拭き取り、工具箱に入れて保管しましょう。
次回からは自転車の専用工具も説明していきます!
●バックナンバー
第1回/空気の入れ方
第2回/簡単なチェーン掃除法
第3回/水を使わずチェーンを洗う(準備編)
第4回/水を使わずチェーンを洗う(実践編)
第5回/出先でのパンク修理に必要な七つのギア
第6回/確実実にサッと行う出先でのパンク修理法