米トレックはエンデュランスバイク・ドマーネをベースにしたE-ロードバイク・ドマーネ+SLRを発表した。新開発のコンパクトで軽量な電動アシストシステムを搭載し、わずか11.8kgというE-バイクとしては圧倒的な軽さを実現している。
現時点で日本での展開については不明だが、本国でのリリース情報をもとに最新E-ロードバイクをチェックしておこう。
>> 後日アルミモデルでリリースが!
目次
TQ E-バイクシステムを採用、E-バイクとは思えない外観や乗り味を実現
2022年に入って、エンデュランスロードのドマーネとエアロロードのマドンのモデルチェンジを発表したばかりのトレックが、とんでもない隠し球を放ってきた。ドマーネをベースにしたE-ロードバイク、ドマーネ+SLRだ。
E-バイクの心臓部とも言える電動アシストユニットには、小型化・軽量化が図られた新開発のTQ-HPR50 E-バイクシステムが搭載されている。
このバイクシステムはBBに内装されるモーターユニット、ダウンチューブに内装されるバッテリー、航続距離を伸ばすレンジエクステンダー、トップチューブに内装されるLEDディスプレイ、ブラケット付近に搭載されるモード切替ボタンからなる。
アシストユニットもバッテリーもディスプレイもすべてフレームに内装され、デザイン面でダウンチューブやシートチューブ、チェーンステーと統合されているので、見た目はE-バイクには見えないのがドマーネ+SLRの最大の特徴だ。
まずはこのバイクのテクノロジーの最重要部と言える電動アシストユニットの詳細を見ていこう。
小さくてパワフル、自然な乗り味をもたらすモーターユニット
ドマーネ+SLRに採用されるモーターユニットは、TQ Systems(ティーキューシステムズ)社がE-バイクシステムとして新開発したもの。TQ Systems社は、自動車、オートメーション、医療、ネットワーク、エネルギー等のエレクトロニクス各分野を担うリーディングカンパニーだ。
TQハーモニック・ピンリング・モーターは、ハーモニックピニオントランスミッションという波動歯車装置を採用している。BB軸の周囲を取り囲むようにモーターが配置され、モーターがハーモニックピニオントランスミッションを介してBB軸の回転をアシストするため、部品点数が少なく、小型・軽量化を実現することにつながった。
一般的な電動アシストユニットのように動力の伝達にチェーンやベルトを介さないため、アシスト時のレスポンスがよく、ダイレクト感もあり、ライドフィールが自然で故障が少ないというメリットがある。
ユニット自体の小型化に伴い、モーターユニットはフレームのBBシェルに内装され、フレームの各チューブともデザイン的に完全に統合されている。
Qファクターはピュアロードバイクとほぼ同じサイズ
Qファクター(左右のクランクのペダル取り付け部分の距離)は163mmと、電動アシストなしの一般的なロードバイクとほとんど変わらないサイズを実現しているのも特徴。
E-バイクにありがちなQファクターが広すぎてペダリング時に違和感を感じることもなさそうで、特に背が低いライダーには恩恵がありそうだ。
また、ハーモニックピニオントランスミッションは、従来の歯車装置と比べてギヤのかみ合う歯数が多く、大きなトルクを確実に伝えるというメリットもある。アシストユニットのスペックは、最大300W、最大トルク50Nm。アシストのパターンはロードバイク用にチューニングされており、自然なライドフィールを実現している。
日本でも展開されることになれば、アシストは日本の法律に基づいて時速24kmまで、アシスト率も日本の法律に基づくことになるだろう。
アシスト時の音の静かさも特徴で、トレックの実験によると、一般的なハイパワーアシストユニットに比べてTQハーモニック・ピンリング・モーターは騒音レベルが抑えられている。特にTonality(音質評価のパラメーターのひとつ。値が大きいと煩わしく感じることが多いとされる)はノーアシストのバイクに近いレベルだという。
なお、電動アシストユニットを使う関係上、クランクはシマノやスラムの純正ではなくプラクシスワークスの3ピースタイプのカーボンクランクとなる。
100km近く走れる内蔵バッテリー+航続距離をさらに延ばすレンジエクステンダー
メインバッテリーはダウンチューブに内蔵される。360Whの容量があり、アシストモードが初期設定のecoモードで96km走れる。航続距離を伸ばしたい場合は、別売の160Whのレンジエクステンダーを併用することができ、併用時は同条件で航続距離が145kmにまで拡大する。さらに専用アプリでアシスト力をカスタムすると、さらに航続距離を伸ばすことも可能だ。
充電はダウンチューブのBB付近にある充電ポートから行う。レンジエクステンダーもこのポートに接続する。レンジエクステンダー本体はボトルケージに装着可能で、重量は約900gだ。
アシストモードを表示する2インチディスプレイはフレームに統合
トップチューブに内装されるTQ LEDディスプレイは、画面サイズ2インチ。アシストモードやアシスト力、バッテリー残量などの表示が可能。
アシストモードの切り替えなどの操作は、ブラケットの根本付近に搭載されるモード切替スイッチで行うため、ライド中もハンドルから手を離す必要はない。
アシストモードはエコ、マイルド、ハイの3モードから選べるほか、専用アプリで個別に最大出力やアシストパワー、ペダルレスポンスをカスタマイズできる。
なお、バッテリーやディスプレイなどを含めたユニット全体の重量は3900gで、モーターユニットのみの重量は1850gと、既存の電動アシストユニットと比べてかなり軽量に仕上がっている。
800シリーズOCLVカーボンフレームで旧モデル比700g以上の軽量化を達成
フレームはドマーネSLRシリーズと同じOCLVカーボンの最高峰・800シリーズOCLVカーボンフレームを採用。TQ-HPR50 E-バイクシステムとの組み合わせで、完成車重量11.8gという軽さを実現。旧モデルのドマーネ+(日本未発売)と比べて700g以上の軽量化を達成している。
フレームの形状やバイクの特徴は、今年発表された新型ドマーネの特徴を受け継いでいる。一方、長めのヘッドチューブでアップライトなポジションが取りやすく、ホイールベースが長く安定性に優れたエンデュランスジオメトリーを採用。
もちろん新型ドマーネに搭載された新しいリアIsoSpeedも搭載され、路面からの衝撃を吸収し、快適な乗り心地を実現する。
さらに対応タイヤ幅を最大700C×40mm幅(フェンダー装着時は35mm幅まで)とすることで、山岳グランフォンドや長距離ファストライドなど地形や距離を脚力や体力に関係なく楽しめ、オンロードだけでなく、ちょっとしたグラベルもカバーするマルチなバイクに仕上がっているのが特徴だ。
もちろんコックピットまわりもボントレガーのケーブル内装対応のものが標準装備されており、ケーブルのフル内装化を実現。クリーンなルックスとともに空力性能向上も追求されている。
気になるアレコレFAQ
ドマーネ+SLRについて、気になるアレコレをトレックの担当者が答えてくれている。
- 前後ホイールの固定方式は?
フロントが100×12mmスルーアクスル、リアが142×12mmスルーアクスルです。
- 機械式ドライブトレインを搭載できる?
電動ドライブトレイン専用です。
- IsoSpeedは調整式?
新型ドマーネと同様、調整式ではありません。
- 取り付け可能なディスクブレーキローターの径は?
フロントが160mmから180mm、リアが140mmから160mmです。
- アクセサリーマウントはある?
フェンダーマウントがあります。RCSプロステムはBlendrに対応しており、ボントレガーのBlendr対応のライトなどが取り付け可能です。
- ダウンチューブに内蔵ストレージはある?
ダウンチューブにはバッテリーを内蔵しているので、ストレージはありません。
- トップチューブバッグ装着用のマウントはある?
ありません。ドマーネSLなどに設けられているトップチューブバッグ用マウントがあった位置にはTQディスプレイがあります。
- マドンSLR用のハンドルバーとステムを使える?
マドンSLR専用なので使えません。
ロード向けのシマノ完成車、グラベル向けのスラム完成車をラインナップ
ラインナップはシマノDi2グループセットにロードタイヤを搭載した完成車と、スラムXPLR 1xグループセットにグラベルタイヤを搭載した完成車が用意され、それぞれコンポーネントのグレードが異なる3モデル、計6モデルが展開される。
Domane+ SLR 9
フレーム | 800 Series OCLV Carbon, TQ drive system, tapered head tube, rear IsoSpeed, internal routing, flat mount disc, fender mounts, 142x12mm thru axle |
フォーク | Domane+ carbon, tapered carbon steerer, internal brake routing, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle |
モーターユニット | TQ-HPR50, 50 Nm, 250 watt maximum continuous rated power, 300 watt peak power |
バッテリー | TQ 360Wh |
メインコンポーネント | Shimano Dura-Ace R9270 Di2, 12 speed |
クランク | Praxis Carbon |
ホイール | Bontrager Aeolus RSL 37, OCLV Carbon, Tubeless Ready |
タイヤ | Bontrager R3 Hard-Case Lite, Tubeless Ready, aramid bead, 120 tpi, 700x32c |
Domane+ SLR 9 eTap
フレーム | 800 Series OCLV Carbon, TQ drive system, tapered head tube, rear IsoSpeed, internal routing, flat mount disc, fender mounts, 142x12mm thru axle |
フォーク | Domane+ carbon, tapered carbon steerer, internal brake routing, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle |
モーターユニット | TQ-HPR50, 50 Nm, 250 watt maximum continuous rated power, 300 watt peak power |
バッテリー | TQ 360Wh |
メインコンポーネント | SRAM RED eTap AXS, 12 speed |
クランク | Praxis Carbon |
ホイール | Bontrager Aeolus RSL 37V, OCLV Carbon, Tubeless Ready |
タイヤ | Bontrager GR1 Team Issue, Tubeless Ready, Inner Strength casing, aramid bead, 120 tpi, 700x40c |
Domane+ SLR 7
フレーム | 800 Series OCLV Carbon, TQ drive system, tapered head tube, rear IsoSpeed, internal routing, flat mount disc, fender mounts, 142x12mm thru axle |
フォーク | Domane+ carbon, tapered carbon steerer, internal brake routing, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle |
モーターユニット | TQ-HPR50, 50 Nm, 250 watt maximum continuous rated power, 300 watt peak power |
バッテリー | TQ 360Wh |
メインコンポーネント | Shimano Ultegra R8170 Di2, 12 speed |
クランク | Praxis Carbon |
ホイール | Bontrager Aeolus Pro 37, OCLV Carbon, Tubeless Ready |
タイヤ | Bontrager R3 Hard-Case Lite, Tubeless Ready, aramid bead, 120 tpi, 700x32c |
Domane+ SLR 7 eTap
フレーム | 800 Series OCLV Carbon, TQ drive system, tapered head tube, rear IsoSpeed, internal routing, flat mount disc, fender mounts, 142x12mm thru axle |
フォーク | Domane+ carbon, tapered carbon steerer, internal brake routing, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle |
モーターユニット | TQ-HPR50, 50 Nm, 250 watt maximum continuous rated power, 300 watt peak power |
バッテリー | TQ 360Wh |
メインコンポーネント | SRAM Force eTap AXS, 12 speed |
クランク | Praxis Carbon |
ホイール | Bontrager Aeolus Pro 3V, OCLV Carbon, Tubeless Ready |
タイヤ | Bontrager GR1 Team Issue, Tubeless Ready, Inner Strength casing, aramid bead, 120 tpi, 700x40c |
Domane+ SLR 6
フレーム | 800 Series OCLV Carbon, TQ drive system, tapered head tube, rear IsoSpeed, internal routing, flat mount disc, fender mounts, 142x12mm thru axle |
フォーク | Domane+ carbon, tapered carbon steerer, internal brake routing, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle |
モーターユニット | TQ-HPR50, 50 Nm, 250 watt maximum continuous rated power, 300 watt peak power |
バッテリー | TQ 360Wh |
メインコンポーネント | Shimano 105 R7170 Di2, 12 speed |
クランク | Praxis Carbon |
ホイール | Bontrager Aeolus Pro 37, OCLV Carbon, Tubeless Ready |
タイヤ | Bontrager R3 Hard-Case Lite, Tubeless Ready, aramid bead, 120 tpi, 700x32c |
Domane+ SLR 6 eTap
フレーム | 800 Series OCLV Carbon, TQ drive system, tapered head tube, rear IsoSpeed, internal routing, flat mount disc, fender mounts, 142x12mm thru axle |
フォーク | Domane+ carbon, tapered carbon steerer, internal brake routing, fender mounts, flat mount disc, 12x100mm thru axle |
モーターユニット | TQ-HPR50, 50 Nm, 250 watt maximum continuous rated power, 300 watt peak power |
バッテリー | TQ 360Wh |
メインコンポーネント | SRAM Rival eTap AXS, 12 speed |
クランク | Praxis Carbon |
ホイール | Bontrager Aeolus Pro 3V, OCLV Carbon, Tubeless Ready |
タイヤ | Bontrager GR1 Team Issue, Tubeless Ready, Inner Strength casing, aramid bead, 120 tpi, 700x40c |
AL・ALRのアルミモデルや、日本展開は未定
ハイエンドモデルとなるSLRグレードの発表となれば、気になるのはSLグレード、そしてアルミのALR・ALグレードだ。
いずれも今回は詳細発表はなく、ドマーネ+SLR含め日本での展開は未定だが、ここまで期待値をあげられてしまうとやはり乗り味を確かめたくなる。
ドマーネ+SLRの電動アシストシステムを開発したTQ社いわく、“テクノロジーは我々が提供する、それをアレンジメントするのはあなたたちサイクリストだ” と。胸を高鳴らせながら、続報を待ちたい。
>> 2023年モデルでフルモデルチェンジしたドマーネSLR/SLはこちらから
>> 後日アルミモデルでリリースが!
TQシステムは搭載されていませんが、それでもスッキリとしたルックスで手の届きやすいアルミモデル「ドマーネ+AL5」が日本展開されています。
All photos (C) TREK