目次
オープン記念のインタビューは、ジャーナリスト・作家であり、自転車の愛好家という顔も持つ佐々木俊尚氏。
ブームは確かに終わったかもしれない。ただ、通勤・通学に自転車を利用する学生、そして社会人は確実に増えた。そんな時代の変化に合わせるかのように昨年12月に道路交通法が改正され、道路の右側にある路側帯の走行が禁止となった。
そう、自転車はあくまで“軽車両”なのだ。
しかしそれでも東京、いや、日本の車道は自転車を邪魔者扱いしている。仕方なく歩道を走った結果、歩行者との接触事故は増加し、死亡にいたるというケースも少なくない。
そんな矛盾から悲しい事故が止まない現状に対して、解決のための“アイデア”を頂戴したのは、世界の都市文化について精通しているジャーナリストであり作家の佐々木俊尚氏だ。あまり知られていないが、彼は日常的に自転車を利用している愛好家である。その歴、約20年。
クロスバイクに乗って東京を走る彼の目には、この街はどう映っているのだろうか。あと6年でオリンピックもやってくる。危惧させている交通渋滞問題、そしてヒートアイランド現象・・・自転車と都市の関係は、本当にこのままで良いのだろうか。
東京という街の文化は、自転車の融合を拒んでいる。
– ?Twitterで自転車保険の加入検討をつぶやいていたのを拝見したのですが、佐々木さんは日常的に自転車を利用されているのですか?
ええ、近場での移動の際などは自転車を活用しています。やっぱり、小回りが効くので電車や車より便利だと思いますね。車の場合、近年、路上駐車の取り締まりが厳しくなった結果、コインパーキングの争奪戦が起こり、駐車に困る状況も起きていますし。
– 佐々木さんが自転車を利用するようになったきっかけは何だったのですか?
ママチャリとしての自転車ではなく、「趣味としての自転車」で言えば新聞記者時代からですね。学生時代はずっと山登りをしていたのですが、山に行く場合はまとまった時間が必要なので、自転車に切り替えました。その後、神楽坂に引っ越したのですが、あそこは急な傾斜が多いので疎遠になりました。その後、今の家に住むようになって、またクロスバイクに乗るようになりました。
– 東京でも、今、クロスバイクなどに乗る方が増えていると思うのですが、事故も少なくありません。佐々木さんも乗っていて危険と感じたことはありませんか?
結構、ありますね。僕の主観ですが、東京のドライバーってみんな運転が上手く、自信のある人間しか乗っていない印象です。そのため、結構なスピードでカーブを曲がってきたりします。おまけに東京は道が狭い。
結局、自転車が向いている街かどうかというのは、車に受け入れられているかどうかだと僕は考えています。街の文化に融合しているかどうか。残念ながら、東京という街は、それを拒んでいるような気がしてならないですね。
ママチャリ文化が定着した結果、日本は自転車“後進国”となった。
– 危険な目にあったことがあるという話ですが、佐々木さん自身、自転車を利用する上でのリスク管理など、何かされていますか?
正直、何もやっていません。強いて言うのであれば、「飛ばさないこと」、そして「広い道を走らないこと」を意識しています。広い道の場合、車が結構飛ばしてくるので、危険極まりない。この2つを心がけて裏道をのんびりと走っています。
– 広い道の場合、その交通量の多さから歩道を走りたいという気持ちも生まれますが、自転車は軽車両ですから車道を走ることが義務付けられていますし。
自転車は軽車両という認識が薄いがゆえ、歩道を速いスピードで走っている人も多いのは確かです。ただ、クルマのドライバーの中には、車道を走る自転車は間違っていると思っている人も多いようですね。結構クラクションを鳴らされますし。
– 道路における、自転車の立場の低さを痛感しますね・・・
かと言って、歩道を走って自分が加害者になるのは嫌です。また、歩道から車道に出たタイミングでクルマと接触事故を起こすケースもありますし。
そもそも、ママチャリ文化が日本を自転車後進国にしてしまったのではないかなと思います。お母さんやそしてご老人がママチャリを使用していると思うのですが、そのような属性のユーザーだからママチャリで歩道を走ってもいいというように、ルールが曖昧になっています。
かと言って、ロードレーサーのようなスピードの出るモノとママチャリを同じ法律で規制するのも間違っているから、そこも難しい。
「アーキテクチャ」が、成熟した文化を変える最善の方法である。
– ルールであったり、物理的なところでの分離、線引がなされていない。意識の啓蒙もひとつの手段かと思うけど、佐々木さんの中でどういうやり方が効果的か、などありますか?
人間の行動を変えるというのは極めて難しい課題なんですが、スタンフォード大のローレンス・レッシグ教授は、その方法は4つに限られると提唱しています。それが、「法律」、「道徳」、「市場」、「アーキテクチャ」。
例にあげたのは、タバコをどうやってやめさせるかということ。法律の場合、禁煙法をつくればいいが、アメリカの禁酒法と同じでマフィアが暗躍してしまいます。道徳の場合、今、JTなどがやっている、喫煙のリスクを唱う取り組みです。長い目で見ると啓蒙、教育の意味で効果があるかもしれませんが、劇的には変わらないでしょう。
3つ目の市場は、非常に明快でタバコを一本1000円にすると喫煙者は激減するだろうというモノ。そして最後がアーキテクチャです。例えばタバコにある薬品を染み込ませて10本以上吸うと気持ちが悪くなるという仕組み、システムをつくることで、そうやってタバコを制限するイメージです。
– となると、即効性があり、かつ現実的な手段としてアーキテクチャになるのでしょうか?
ええ、このように、現実的に実現できる施策として、レッシグ教授は市場とアーキテクチャが効果的だと語っています。道交法を改正しても現状、あまり効果がなく、かと言って道徳にうったえかけても、歩道を走る自転車は減らないでしょう。
市場のケースで考えると、ママチャリを全廃し、自転車はロードバイクとクロスバイクしか認めず、価格は5万円以上とすると効果はあるかもしれませんが、これだけ文化が成熟・普及している日本のような国の場合は、弱者を救済できないという点から確実に問題が起こるでしょう。
となると、やはりアーキテクチャ的な解決が一番現実的で、誰も傷つかなくてすむのではないでしょうか。保険制度の整備や、人間の行動に対して理に適った自転車専用道路をつくるなど、都市設計を見直すべきだと僕は思います。
オリンピックも開催されることですし、このタイミングで見直すべきだと。そして整備するのは路地裏の狭い道ではなく、危険地帯となっている国道などの大きな道路の整備から進めるべきですね。
※後編:自転車は、いわば民主主義の証である。-佐々木俊尚氏が描く、都市と自転車が調和する世界[2] ?-。
佐々木俊尚 Toshinao?Sasaki
1961年兵庫県生まれ。早稲田大政経学部政治学科中退の後、毎日新聞社に入社。その後、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立し、IT・メディア分野を中心に取材・執筆している。主な著書に、「レイヤー化する世界」(NHK出版新書)「『当事者』の時代」(光文社新書)「キュレーションの時代」(ちくま新書)「電子書籍の衝撃」(ディスカヴァー21)など多数。総務省情報通信白書編集委員。
公式サイト