パシフィックコンサルタンツが自転車通勤制度を導入した理由−交通施策のプロに訊く自転車通勤のいま【前編】

健康や環境への意識の高まりから自転車について注目が集まるなか、公共交通機関が発達した都市のようなエリアでも、自転車が日常の通勤手段としても利用されるようになってきました。しかし、利用に注目が高まる一方で、企業が自転車通勤を正式に認め、公共交通機関や車利用と同等の環境整備をするなどの制度化の動きは、最近ようやく始まったばかりです。

今回は、こうした制度化にいち早く取り組んでいる企業の事例として、建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツ株式会社の自転車通勤制度についてご紹介します。

前編では、ベテラン社員にお話を伺い、制度化のいきさつや、自転車通勤に必要な条件など、制度化に至った背景や枠組みについてまとめました。後編では、実際に制度を利用している若手社員さんに、制度について感じていることや、通勤時の工夫、実際の業務との関わりなどについてお話いただいた内容をお伝えします。

コンサルタントとして、業務で交通や自転車の課題解決に取り組む

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(自転車の利用環境を構築するプロとして、自治体の道路計画をコンサルティングしてきた久野暢之さん。自転車をめぐる社会的課題に向き合ったのは、奈良県との仕事がきっかけ)

お邪魔したのは、東京都庁からもほど近い高層ビル群の一角にある東京の西新宿のビル。パシフィックコンサルタンツを訪れると現れたのは、同社が取り扱う大きな柱の事業の一つ「交通政策」分野に携わる、スラリとした2人の男性でした。

入社25年目のベテラン社員である久野暢之さんは、都市計画や道路計画に携わるコンサルタント。自転車との関わりについては、奈良県などで、自転車の利用を取り入れた観光振興や地域活性化をコンサルティングしてきた実績があります。

自転車通勤の利用実態を知る前に、まずはどのような特色を持つお仕事なのか教えて下さい。

久野 「私のいる部署は、都市計画、道路計画、交通計画といったことに関わっています。今、渋谷駅周辺で進められているような大規模なターミナルの再開発に関わっていたり、道路新設や拡幅時の交通シミュレーションや、津波のシミュレーションなど、多岐にわたっています。歩行者から飛行機までが守備範囲で、モビリティ全般を扱う分野です」

久野さんがこれまで取り組んできた自転車を利用した地域活性化は、国が促進していることもあり、近年、全国各地で自転車利用の地域活性イベントやコミュニティサイクルが盛んになってきています。最初は、都市や道路の計画のごく一部だった自転車の取り扱いが、自治体から相談に乗るうちに、大きくなってきたといいます。

同社は、国交省の「自転車利用環境創出ガイドライン」の策定時にも事務局を務めただけでなく、国が発行する道路や自転車利用の環境整備などをまとめた冊子を作成するなど、政策検討や基準等の作成においても実績を積み重ねてきました。

会社で、自転車の課題に取り組み始めた背景とは

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(レンタサイクルやコミュニティサイクルの事情に詳しい久野さんは、2020年の東京オリンピックに向けて、国内のサイクル事情の活性化にも期待を寄せる)

久野 「当社が道路計画等で自転車の課題に取り組み始めた背景には、3つの流れがあります。

CO2削減に取り組む流れの中で、なるべく公共交通機関を利用しようとか、自転車を利用しようとか、そういう声が上がり始めたんです。

その時、自転車に関する環境整備について調べてみたら、主な施策研究は駐輪場の計画くらいでした。自転車が走るのは歩道か車道か、といった点についてすら、実質的には利用者任せになっていました。流れのひとつは、こうした環境や社会からの要請です。

ふたつ目の流れは、自転車についての社会的な関心が高まってきて、“自転車”をキーワードに人を集めようという動きが生まれたことです。

最後の一つは、社内に意外と自転車好きがいて、「自転車で何か仕事やろう」と自主的に人が集まってきたことでした。」

コンプライアンス徹底で制度を導入。社員が安心できるように

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(「自転車利用するなら保険に加入すべきということもまだ知られていない。自転車通勤制度の導入は、安全で快適な自転車利用を社会に提案している当社が見せるべき姿勢のひとつ」と久野さん)

そのような自転車に縁ある業務が、社内への自転車通勤制度の導入に結びついていったのでしょうか?

久野 「実は、そうでもありません。自転車通勤制度の導入が決まったのは、企業コンプライアンスの観点からでした。

土木や建築に関わるコンサルに対する世間的なイメージというのは、時としてダークなものでもあります。当社では近年、そうしたイメージからいち早く脱却するためにも、法令遵守を徹底しようという動きが出てきていたのです。」

とはいえ、自転車通勤をしていた人は制度ができる前から少なくなかったはず。制度導入のメリットはあったのでしょうか?

久野 「それはやはり、社員が安心して堂々と自転車に乗れるようになったことですね。

自動車は、免許を取得し、保険にも入らないと運転できませんが、自転車はそのどちらもないまま運転できてしまいます。自転車はこれまで、通勤に使うには企業の安全管理上、とても中途半端なものでした」

制度導入から3年で社員の約1割が利用するように

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(パシフィックコンサルタンツの自転車部で撮った写真。部発足の経緯は後編で)

パシフィックコンサルタンツでの実際の自転車通勤制度が始まったのは2012年4月から。現在の利用状況は、全国1,600人余りの社員(2014年10月現在)のうち、約1割にあたる150人程が、会社に申請して制度を利用しているそうです。

久野 「通勤の過程で自転車を使う場合が制度の対象です。最寄り駅まで乗るだけの場合も、事業所まで自転車で通うのも“自転車通勤”となりますので、全て申請が必要です」

さらに、社内で決められている利用にあたっての諸条件についても確認してみました。

久野 「自転車通勤利用規定を設けて、通勤圏内は20km未満までと定めています。利用申請にあたっては、対人事故時の賠償金が1億円以上の自転車保険に入っていることと、駐輪場の契約があることが自転車通勤を認めるための条件です。

規定では、ルールを守った走行を求めています。イヤホンやヘッドホン、傘を使いながらの運転を厳禁としていたり、気象条件が悪い日の運転は避けるように記述するなど、安全運転について触れている部分もあります。

やはり、通勤途中で事故に遭うことが一番駄目。自転車利用を会社に届けていなければ、事故に遭ってしまったら労災としても認められません。だから<ちゃんと条件を設けて申請するようにしましょう>となったのです」

同社では保険加入は自己負担ですが、グループ会社で対象となる保険商品を扱っているため、簡単に申し込めます。こうした保険の必要性の認識や加入時の障壁を取り除くことは、自転車通勤制度の導入のハードルを下げるヒントといえるかもしれません。

さらに同社では、公共交通機関がない人のみ月額2,000円まで出る駐輪場料金の補助があるそうです。制度を利用していても、公共交通機関の通勤手当は出るようになっています。福利厚生としても設計されているのが、パシフィックコンサルタンツの自転車通勤制度といえそうです。

後半は、制度を目一杯利用して、ツーキニストライフを満喫している若手社員、栗栖嵩さんの声をお伝えします。

後編はこちら。
核心は“乗りやすさ”の道路情報−交通施策のプロに訊く自転車通勤のいま【後編】

[編集部追記]
自薦他薦問わず、自転車通勤推奨企業さまの情報がございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。
info@bike-startup.co.jp(担当:宮川)

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WRITTEN BY加藤 順子

ライター、フォトグラファー、気象予報士。自転車に乗るときは、天気予報の確認も忘れずにね。

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