どうすれば自転車通勤が当たり前の社会になる?    日本一自転車乗りのことを考える*自活研理事に聞いた

自転車通勤を推奨する社会とは?

FRAME編集部では日々自転車に乗っていて疑問に思う場面や、自転車を取り巻く環境を例に、実際にどんな方法が有効なのかを考える連載を行っています。

第八弾として今回はこのシチュエーションについて考えてみたいと思います。

この状況で何を考え・何をすべきか、FRAME編集部で日本で一番真剣に自転車乗りの権利を考えていると編集部が考えているNPO法人自転車活用推進研究会事務局長の内海潤さんに回答をお願いしました。

内海さんのコラムに移る前に、FRAME読者の回答を見ていきましょう。

そもそも会社が許可をしてくれない

通勤をする道路自体が、自転車乗りに優しくない

着替え場所が会社に用意されていないから

通勤手当が出ないから

あなたはどう考えましたか?
それでは内海さんの意見をお読み下さい。

通勤手段の考え方について

まず認識したいのが、欧米と日本では通勤に関する考え方が違うということ。欧米は自己責任の国々なので、どんな交通手段で出社しようが関係なく、就業時間中に事故や災害が起きた際は会社が責任を持つという考え方。それに対し就業時間中はもちろん、通勤中も事故や災害が起きた際まで会社が責任を持つのが日本企業。つまり、通勤中に事故があると会社が労災保険を使って治療や休業中の補償をしてあげる必要が出てくるということ。

これは大きな相違点であり、ネックになっていたのは事実だけれども、実際には人事や総務の担当者が面倒がって「自転車通勤は危険だから」などと誤魔化して積極的に導入してこなかったというのが本質だと睨んでいる。自転車に対する誤解も多く、通勤で疲れてしまっては元も子もないと思われていた節もある。

とりわけ東京など都心部の殺人的な満員電車で精神的に疲れてしまうことの弊害は相対的にマシだと考えられてきたし、公共交通機関が発達しているのにリスクを冒してまで自転車で出社させるメリットを経営陣も感じなかったからだろう。少なくとも数年前までは。しかし今、外資系IT企業を皮切りに大きな波紋が生じている。

健康経営銘柄選定の意味

2015年に経済産業省と東京証券取引所は健康経営銘柄という名称を新たに設け、日本再興戦略の一環として国民の健康寿命の延伸に取り組み始めた。医療費の削減は国家戦略の要であり、税収(入金)の先細りが懸念される中で、歳出(出金)を減らす効果的な活動をしている企業は将来も有望であるはずという官製の株高創出施策なのだが、実際に何社か健康経営企業の方々と接してみて思ったのは、健康に対する意識が高いこと。

分かりやすく言えば、健康保険組合の保健師さんから「痩せなさい」と言われるのと、同じことを社長から言われる差だろう。私にも経験があるが「はいはい」と聞き流すのと、「はい、分かりました!」という返答にも意識の差は出る。よく欧米では太っていると出世できないと聞く。

太っていることと仕事ができないことの関係性は未知数だが、あれの日本版と言えば、さらに分かりやすい。いずれにしても企業評価の基準のひとつに健康経営をしているかどうかという評価が今後入ることになるので、株式時価総額を上げたい日本企業にもメリットが出てくる。

外資系企業に限って言えば全く違う感覚で自転車通勤を考えている。会社がどうこう言う問題ではないものの、世界中にあるオフィスで自転車通勤は選択肢のひとつであるばかりか、健康や環境に関する意識の高まりで存在感を増しつつある。

現に「なぜ日本オフィスだけダメなんだ?」という声も出ている。自転車で通勤する社員群が業績や意欲が高いというデータも出始めている。根拠とするには数が足りないものの、学術的に強化されて定説になるだろう。もはや時間の問題だ。

実はもう、とっくに始まっている

IT業界の開発系職種には一定期間に業績を上げれば、何時に出社して何時に退社しても構わないというポストが多い。9時-17時に縛られないオフピーク通勤も可能な仕事だが、課題の提出期限前はエンドレスになることもある。深夜タクシー代が出ない場合は途中で切り上げて終電に乗らなければならないので、元々時間を気にせず仕事を済ませるために自転車で通勤している人が多かった。

社員が機嫌よく、かつ効率よく仕事してくれることこそ会社の発展に繋がると考えた中小IT企業の経営者は自転車通勤を奨励してきたが、大手は二の足を踏んでいた。ところがこの数年でヤフーやアマゾン、クックパッドが軒並み自転車通勤の解禁に踏み切った。先日ついに日本オラクルも解禁となり取材したが、自社で駐輪場も確保して社員の健康や環境に対して責任を持つという考え方を教えてくれた。一部上場企業の東京本社が自転車通勤を解禁する時代になったのかと思うと感無量である。社内規定の作り方などは既に立派な下敷きがある。あとは、やる気と駐輪場の問題だけと言っても過言ではない。

いずれにしても、ここまでくれば考えひとつであり設備がどうのこうのではない。シャワーがなくても制度は作れるし、駐輪場がなくても個々の社員に確保させればいいと考えれば何の問題もなくなる。

通勤交通費でつまずく会社もあるので念のため書いておくが、そもそも通勤交通費は支払い義務のある手当ではない。社員の既得権益になっており、今更なくす訳には行かないだろうが、払ってあげているのだから文句を言われる筋はない。とは言え自転車通勤をすると宣言したら今後ゼロという訳に行かないので国が作った通勤距離に応じた非課税枠の中で処理されると良い。

2km未満は全額課税だが、それ以上は非課税枠内で設定すれば電車の定期代より低くなるはず。企業側は全額非課税だから懐が痛まず支出額がダウンするケースが多い上、社員側は通勤交通費がゼロにならず雨の日など自転車で通勤できない日は電車で出社できて互いにWin-Winである。

横並びを気にする日本企業も今後は道路のインフラ整備が進むほか、さまざまな時代の変化で一斉に自転車通勤の解禁に踏み切るはずだ。以前、燃えるゴミの袋が黒から白へと一気に変わったように、近い将来、自転車通勤が当たり前の都会の風景になることを疑う余地はない。その日を心から楽しみにしている。

いかがでしたか? FRAMEのTwitterで回答を募集したツイートでは、道路が現状自転車乗りに優しくない作りをしており会社側としてもケガのリスクを考えるのではという意見が多かった一方、多くの会社で通勤手当が電車を対象としているため、自転車通勤をするとある種損をするという鋭い意見まで寄せられました。

内海さんの解説の通り少しずつではあるものの、自転車通勤がより推奨されていく社会に向かっているのは間違いありません。自転車通勤全面解禁の流れが迫っている今だからこそ、それぞれの会社の社内でどうやって安全にかつ自転車通勤を増やしていくべきかという模索をする必要がありそうですね。

FRAMEでは過去にもジテツウ(自転車通勤)を推奨する企業にインタビューを行ってきました。

こうした問いをきっかけに、自転車を取り巻く環境について本来どうあるべきか今一度考えてみませんか。今よりもっと先の自転車の未来自転車と共存する社会の実現を願い一歩動き出してみる、まさに今はそんなタイミングなのかもしれません。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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