電動アシスト自転車で小豆島映画めぐり〜永瀬正敏に会いに〜前編

1.遙かなる小豆島

自転車好きのみなさん、48歳のオッサン、哲也です。本職は映画ジャーナリスト。2回目の登場です。前回の記事『「いちはらアート×ミックス」にサイクリングをミックス』を徹夜して書いた後、香川・小豆島(2017年4月28〜29日)へ行ってきました。

写真家としても活躍する俳優の永瀬正敏さんが2017年4月29日から、小豆島にある「二十四の瞳映画村」に開村30年を記念して新設された「Gallery KUROgo」で写真展「flow」を開催!! その前日の28日に関係者向けの内覧会と地元メディアの取材会があるというわけです。オッサンにとって、香川は四国で唯一、未踏の県。しかも、数々のドラマ、映画になった壺井栄原作の名作『二十四の瞳』の舞台ですよ。これは、行くしかないでしょ!

永瀬さんの事務所の岡野社長は「小豆島は高松空港から遠いですよ。空港からご一緒に車で乗ってきませんか?」と言ってくれたのですが、永瀬さんと岡野社長は羽田発。一方、オッサンが取ったチケットは、成田発のジェットスター。到着時間を聞くと、永瀬さん一行の方が30分早い。さすがに、映画俳優を待たせるのはあかん。

「えーと、取材開始は何時ですか?」
「2時です」
「なら、間に合うと思いますので、自力で行きます。大丈夫です!!」とオッサン。

成田発高松行きのジェットスター

成田発高松行きのジェットスターは8時20分発、9時40分到着予定。フライト時間は1時間20分。そこから、市内に出て、フェリーか高速艇に乗って、映画村までバスかなにかで行けばよい……はず。ざっくり下調べはしておいた。

飛行機は多少遅れて、10時頃着。高松駅行きのリムジンバス(760円)に乗り込む。ところが、全然発車しない。飛行機の到着と連動しているそうで、ある程度、乗客が乗り込むまでステイということらしい。東京よりも、ゆっくり時間が進んでいるようだ。待つこと約20分。市内までは約40分で、高松駅には11時20分着。

駅からフェリー乗り場までは徒歩5分。小豆島行きのフェリー、高速艇はやたらある。小豆島には、土庄(とのしょう)・池田・草壁とたくさんの港があるらしい。土地勘のないオッサンは困ってしまった。

小豆島・土庄行きのフェリー。行き先には気をつけましょう

折しも、港には、「Olive Line」と書かれたフェリーが着岸中。11時35分土庄行きだった。急げ。徹夜明けでヘロヘロだけど。チケット売り場に駆け込み、「映画村に行きたいのですが」と買い求めると、「土庄は映画村から一番遠い港ですよ。12時15分の草壁行きがいいと思います」とのこと。助かった。

高松〜草壁(内海フェリー)までの運賃は690円。多少時間があったので、散策がてら高松駅まで戻って駅弁を買った。フェリーで、駅弁ってのも変な話だが…。穴子弁当(1000円)。高松名物らしい。フェリー内でも、弁当を売っているようだが、臨時休業。GW本番を前に休んでおこう、という感じかな。

高松名物のあなご弁当(1000円)

12時15分、無事出発。さすがは大型フェリー。まったく揺れないのだ。船内にいると、動いている感じすらしない。デッキに出ると、海上は凪。フェリーは白波を立て、進んでいく。いやあ、来てよかった! 昨今、豪華客船ブームのようだけど、エコノミーなオッサンはフェリーで十分だぞ。なんせ、デッキも独り占めなのだ。iPhoneでバシバシ撮って、「どうだ、羨ましいだろう」とばかりにSNSに写真をアップしていると、「フレイム」編集長から、メッセージが届く。

内海フェリーからのパノラマ風景

白波を立て、瀬戸内をいく内海フェリー

「よかったら、自転車ネタも探してみてください!」

おお、そうだ、港から映画村まで自転車で行けばいいんじゃん。日本映画で「二十四の瞳」ほど、自転車が印象的な作品はない。大石先生も、島内をさっそうと自転車で走っていたではないか。船内に戻ると、壁にレンタサイクルの広告が…。草壁港で貸してくれるらしい。きっと、これは神のお告げに違いない!!

2.電動アシスト自転車は“神”

1時20分、草壁港着。なんだかんだで、いい時間である。2時に間に合うのか。周辺でレンタサイクル店を探すも、見つからない。仕方ない、フェリーのチケット売り場で聞くか。

「自転車を貸してくれるところ、ありますか?」
「はい、ここですけども」

というわけで、意外にカンタンに見つかった。

電動アシスト自転車はパナソニック製

内海フェリー レンタサイクル>>
普通自転車 4時間 1,000円
1日  1,500円
電動自転車 4時間 1,500円
1日  2,000円

徹夜明けということもあり、迷わず電動アシスト自転車をチョイス。港では、荷物も預かってくれる。ハンドバッグ、紙袋など小200円、キャリーバッグ、バックパック、ボストンバッグなど大300円。だが、レンタサイクル利用者は100円という。

申し込みはカンタン。用紙にケータイの連絡先などを書くだけで、自動車免許証の提示も求められなかった。聞かれたのは、「どこでレンタサイクルをお知りになりましたか?」ってことくらい。
「ホームページですか?」
いや、さっきのフェリーで…、と。

貸し出されるのはパナソニック製の3段ギア。店員さんが電池の状態をチェック。「走る時はスイッチを押してください。使わない時はオフに。こっちがギアです」。充電90%。自分の体力は40%くらいなので、しっかりアシストしてもらおうじゃないの。

実はオッサン。電動アシスト自転車、初体験。世のお母さん方が子どもを2人乗せて、軽快に走る姿を見て、かねてから不思議に思っていた。あんな重そうな自転車がなんで、楽なの? 軽いロードバイクに乗せた方がいいんじゃないのって。いやいや、完全に間違っていましたよ。

ペダルを漕ぎ出した瞬間、グイッと前に進む。ママチャリの、あの重い感じがまるでない。自分が漕いでいる感じがない。これは神の所業だ。1844年、サミュエル・モールスは電信実験の際、「What hath God wrought(神がなせし業)」との電文を送ったというのは有名な話だが、電動アシスト自転車も、What hath God wrought!

もっと身近に例えるなら、疲れた翌朝、栄養ドリンクを飲んだような感覚。まるで、自転車に翼が生えたようではないか!オッサンはこれをレッドブル号と名付けることにした。赤くはないが…。

3.自転車も乗せられる渡し船

2時の会見の開始まで、あと30分。自転車NAVITIME(これも神アプリ!日本で自転車モードが使えないグーグルマップはもういらない!)で検索すると、映画村までは「9.8km、時間48分、獲得標高54m」。たとえ、電動アシスト自転車が神だとしても、9.8kmを30分で走ることはできないだろう。

困った! 港で途方に暮れていると、妙齢の女性が話しかけてくる。
「どこまで行くの? 映画村? オリーブビーチまで行けば、渡し船が出ていますよ」
「オリーブビーチまではどれくらいですか?」とオッサン。
「15分もあれば、大丈夫ですよ。船だったら、10分で着くから」

困った時の助け船。まさに、渡りに船とはこれいかに…。

自転車NAVITIMEで再び検索。オリーブビーチまでは「2.7km、時間12分、獲得標高2m」。間に合うかもしれない。

オリーブビーチまでの道はほぼ平坦。海沿いを走る格好だ。先日、走ったばかりのしまなみ海道を思わせるのどかな道。左に海を見ながら、走っていく。ここをロードバイクで走ったら気持ちがいいだろう。ロードバイク乗りにすれ違い、電動車椅子に乗っているおじいさんを追い越し、一路、オリーブビーチへ。急がないといけないのだけども、あまりに景色がいいので、写真も撮る。

小豆島・草壁港を臨む

透明度の高い小豆島の海

左手に海を見ながら海岸沿いを走る

1時42分、ビーチ到着。観光協会の建物で、船の乗り場を聞くと、すぐ先に桟橋があるという。「そこに船がいなかったら、ここに電話してみてください。10分ほどで来ますから」。つまり、渡し船は一艘で、オリーブビーチと映画村を往復しているらしい。

オリーブナビ小豆島

桟橋に向かっていくと、いたいた。船長さんは、お昼寝中だったみたい。運賃は500円。自転車を載せると、250円プラスになる。客はオッサン1人で、まるでチャーター船だ。ただ、30kg以上ある電動アシスト自転車を載せるのだけは難儀である

自転車も乗せられる渡し船

海沿いのサイクリングもいいが、クルージングはもっと最高だ。風を受けながら、対岸の映画村へと進んでいく。iPhoneをチェックすると、永瀬さんの事務所の岡野社長からメッセージが入っている。

「ぎりぎりまで設営していました。14時30分から地元マスコミのインタビューです」

時計を見ると、2時2分。乗船から約10分、櫓、幟が見えて到着。

4.二十四の瞳映画村で、永瀬正敏さんの写真展

岬の分教場と映画村を結ぶボンネットバス

2時半前、レッドブル号をボンネットバスの近くの駐輪場に停め、映画村へ。朝、5時45分に千葉市内の自宅を出発。約9時間近くか。遠かったな。

ちなみにロードバイク用の駐輪場も完備。昨今、専用駐輪場も増えつつあるけれども、ロードバイクにはスタンドがないことを知らない人も少なくない。こうした配慮はうれしい限りだ。

映画村内。菜の花畑。向こうには海が見える

映画村は、1987年公開の映画「二十四の瞳」(監督:朝間義隆、主演:田中裕子)のロケ用オープンセットを改築したもので、映画の上映、各種イベント、飲食施設もあり、ノスタルジックな空間の中で、来場者が一日中楽しめるようになっている。

ギャラリーに行くと、岡野社長の姿が。永瀬さんは控室にいる、という。ギリギリセーフ。これも、電動アシスト自転車と渡し船のおかげ、である。

写真展「flow」をスタートさせた永瀬正敏さん

映画「光」のセットを再現した展示
映画「光」のセットを再現した展示

永瀬さんに「自転車で来たんですか?すごいですね」と驚かれる。「忌野清志郎さんもよく仕事場に自転車で来ていましたよ」

永瀬さんは1983年のデビュー当時、キティ・フィルムに所属していたが、清志郎さんのバンド「RCサクセション」が系列のキティ・レコードだったため、いつか会えるかもというのが動機だったと言っていた。

写真展「flow」は、永瀬さんが失明の危機に直面したカメラマン役を演じた主演映画「光」(河瀨直美監督、5月27日公開)の劇中に登場する写真を中心に125点を展示している。8月31日まで。(後編に続く)

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WRITTEN BY哲也

1968年、東京都生まれ、千葉育ち。92年からスポーツ新聞社に勤務し、主に芸能、映画を担当。世界三大映画祭を取材したのが自慢。15年1月、退社し、ふらふら。17年夏、編集プロダクションを立ち上げ予定。ロードバイク歴11年。サイクリング中に見つけた千葉にある近代建築の保存運動にも関わっている。

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