空から見えるサイクリングの形とは? JAL自転車クラブにきいてみた!

交通機関に持ち込めるよう自転車を分解梱包する「輪行」を利用して、サイクリングを楽しんでいる人は多いのではないでしょうか。とりわけ航空機に積み込む「飛行機輪行」では、サイクルツーリズムの行動範囲が格段に広がります。JAL(日本航空)の企業内クラブ「JAL自転車クラブ」でも、飛行機輪行で地方へのサイクリングを楽しむ機会が多いとのこと。航空会社で働く人からは、サイクリングはどう見えるのでしょうか?

飛行機輪行は「発展途上」

「飛行機輪行する場合、薄い布でできた携帯型の輪行袋よりも、クッションが備わった輪行バッグやハードケースのほうが自転車が傷つきにくく、安心感があります。でも頑丈なだけにかさばってしまい、持ち運びに困ることもあります」
こう話すのは、JAL自転車クラブ・部長の大橋篤さん。大橋さんはボーイング767型機の機長として世界中の空を飛び回る一方、プライベートではクラブ員と飛行機輪行を利用してサイクリングを楽しんでいます。ところが飛行機輪行の利用環境にはまだ改善の余地がある、と大橋さんは感じています。

JAL自転車部・部長の大橋篤さん

「例えば空港で自転車を組み立てると、輪行バッグやハードケースはかさばる『お荷物』になってしまう。しかし、それらを一時預かりするサービスを行っている国内の空港は、現状ではほんの一部です」
輪行袋を常に自分で持ち運ぶ鉄道輪行と異なり、飛行機輪行では手荷物として航空会社に預けます。携帯タイプの輪行袋は持ち運びに便利ですが、自転車のキズや破損が心配。輪行バッグやハードケースは安心感があるものの、使い勝手は「発展途上」と言えるでしょう。
航空会社から見た飛行機輪行の課題を、大橋さんはこんなふうに捉えます。
「例えば自転車が傷つかないよう、貨物コンテナに輪行袋を安全に積み込むにはどうすればいいか。自転車イベントの開催などで飛行機輪行の利用が集中した時、1便に何台載せられるか。空席待ちのお客様が輪行している時、預かった自転車の管理をどうするのか。そういった、個々の具体的な事例でのノウハウを少しずつ積み重ねていく必要があると思います」

地方との連携に可能性

JAL自転車クラブ(同会提供)

サイクリングが趣味の大橋さんがJAL自転車クラブの発足を思い立ったのは、同社の経営再建を経験する中で「創造的に仕事に取り組むには、仲間と一丸になって取り組めるクラブ活動も必要」と考えたのがきっかけ。ところが、地方や海外でサイクリングを楽しもうにも、飛行機輪行は今よりも認知度が低い時代でした。
そこで「飛行機輪行を楽しむ実績を作りたい」との動機も新たに加わり、クラブを立ち上げたのが2015年2月。当初は20人程度だった部員も、現在では運航乗務員や客室乗務員、地上職のスタッフなど約60人が参加しています。
「ツール・ド・東北」にはクラブとして毎年出走。他にも青森県内で開かれる「岩木山ヒルクライム」など、地方での大会を楽しむ機会も多いとのこと。

しまなみ海道で。地方でのクラブツーリングは飛行機輪行を利用

「サイクリストを招き入れたいと考えている地方自治体が近年増えている。その際、飛行機輪行という視点で見れば、地方と航空会社との協力や連携も大事になってくる」と大橋さんは考えます。
「例えば空港のとなりにレンタカー店などと並んで、サイクルツーリズムの拠点となる『サイクルハウス』があるとします。そこでは空気ポンプや工具が常備してあり、しかも輪行ケースの一時預かりサービスなどもやっていれば、飛行機輪行はとても便利になるのではないでしょうか。私たちはあくまで企業内クラブですが、活動を通して航空会社の視点でサイクルツーリズムを楽しむ上でのヒントは持っていると思います。それらが活かされて、サイクリングを楽しむ人が『こんなのを待っていた!』と共感できるサービスが実現できたらうれしいですね」

福島県今宿でクラブ合宿(2016年4月)

実際にクラブへは、自治体や企業からサイクルツーリズムに関連した相談が寄せられることもあるそうです。また最近はメディアによる取材も増えてクラブの存在が知られるようになり、社内からも「九州や四国も走ってみては」とオファーがかかることもあるのだとか。

クラブ活動で社内のアシストが強化!?

入部希望者向けオリエンテーション。クラブ活動が社内での横のつながりを生むきっかけに

ところで、大橋さんが本格的にサイクリングを楽しむようになったのは機長に昇格した年から。国内線と国際線とを行き来する仕事の都合上、「どうしても生活のリズムが乱れがちになる」ため、健康管理の目的で自転車に乗るようになりました。運動して汗をかくとよく眠れることから、時差の調整にも適していたそう。
ではクラブ活動を通じて、仕事での変化はあったのでしょうか。

クラブ活動を通じて「仲間意識が強まった」と話す大橋さん

「専門職として自分の持ち場に専念していた以前と比べて、会社全体を強く意識するようになりました。異なる部署の人とグループライドなどを経験することで、仲間意識が強まったように感じます。例えばパンクした時には航空整備士の仲間が、たちどころにパーフェクトに直してくれたり。去年のツール・ド・東北は大雨でしたが、そうやってクラブの仲間と支え合いながら211km完走しました。今では仕事上の相談をクラブ員の間でするなど、横のつながりで仕事をアシストするような機会が増えています」(大橋さん)

最近は女性客室乗務員の部員も増えてきているという

クラブを円滑に運営する上では「純粋に自転車を楽しみたい人もいるので、企業内クラブということを意識しすぎないよう配慮も必要」という大橋さん。最後に今後の展望について、「地方でのサイクリングを年間5~6大会ほど走りつつ、活動を通じて飛行機輪行がより便利になるよう発信していきたい」と話してくれました。

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WRITTEN BY斉藤円華

ジャーナリスト/ライター、サイクリスト。本格的なサイクリング歴は高校以来30年近くにわたる。スポーツ自転車の好みが1980年代で停止したままとなっており、とりわけクロモリのホリゾンタルフレーム、ランドナーほかドロヨケ付自転車には目がない。自転車フリマを物色するのがここ数年のマイブームに。

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