2017ブエルタ・ア・エスパーニャ熟練ジャーナリスト予想 | 大本命フルームに、ニーバリやアル、バルデらが立ちはだかる

いよいよ、8月19日にブエルタ・ア・エスパーニャが始まる。5月のジロ・デ・イタリア、7月のツール・ド・フランスに続いて行われるグランツール最終戦に照準を合わせている選手も多く、今年も熱戦が期待される。さて、今年のブエルタを制し、マイヨロホを獲得するのは誰か? 大胆に予想してみたい。

ブエルタ・ア・エスパーニャのリーダージャージ「マイヨロホ」 ©Santini
ブエルタ・ア・エスパーニャのリーダージャージ「マイヨロホ」 ©Santini

総合優勝に燃えるフルーム

まずは優勝候補の最右翼だが、やはりこれはクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)で決まりだろう。今年、ツール・ド・フランス4勝目を挙げた後、ブエルタに向けてじっくりと休養と調整を続けてきた。フルームは、2011年、2014年、2016年と3回もブエルタで総合2位と苦杯をなめている。学習能力の高いフルームのことであるから、今年こそは勝つために完璧なプランを練ってきたことだろう。
フルームは、どの選手よりも「ブエルタに勝つ」というモチベーションが高いのはもちろんのこと、勝つための方法を誰よりも熟知している。ミケル・ニエベ(スペイン、チームスカイ)やワウト・プールス(オランダ、チームスカイ)、ディエゴ・ローザ(イタリア、チームスカイ)とアシスト陣も強力で、今のところ死角が見当たらない。

優勝候補最右翼のクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)La Velta Official Webより
優勝候補最右翼のクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)La Velta Official Webより

最大のライバルはニーバリ

フルームの最大のライバルは、2010年のブエルタの覇者ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)だ。ツールを欠場してこのブエルタにかけているニーバリは、疲労がたまっていないという点でフルームよりも有利だといえるだろう。
事実、ツールとブエルタを同じ年に制した選手というのは、過去にほとんど例がない。かつて5月にブエルタを開催していた頃にはジャック・アンクティル(フランス)やベルナール・イノー(フランス)が達成したことがあるが、現在のように8月から9月にかけて開催するようになってからは、誰もツールとブエルタの「ダブルツール」を達成していないのである。それは、やはりツールの疲労が抜けきらないうちにブエルタが始まってしまうということが大きな要因になっているのだ。
近年、多くのエースたちが目標とするレースを絞り込むようになり、それゆえいくらツールで活躍した選手といっても、ブエルタ一本に照準を絞ってきた選手には、なかなか勝つことができないのである。

フルームの最大のライバル、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) ©RCS Sport
フルームの最大のライバル、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) ©RCS Sport

アル、バルデにも注目

続いて手強いのが、ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)とロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)だ。アルはツールを総合5位、バルデは総合3位で終え、フルームとともにグランツール連戦となる。ここは、やはり不安材料ということができるだろう。
どんなに強い選手でも、調子のピークを1年中ずっと維持することはできない。目標とするレースに合わせて調子のピークをもっていくわけだが、ツールで活躍した選手たち全員が、そのピークを1ヶ月弱でまた最高潮にもってこられるとは限らない。走ってみなければわからない、という選手も多いだろう。この辺は、フルームも含めてツールに出場した選手全員にいえることだ。
とはいえ、選手たちだって、そんなことは百も承知。アルやバルデほどの選手ともなると、1ヶ月弱できっちりと調整してきているだろう。ツールよりも勾配のきつい坂が多いことも、アルやバルデに味方することだろう。

2015年のブエルタの覇者ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) ©A.S.O.
2015年のブエルタの覇者ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) ©A.S.O.

ツール・ド・フランス総合3位のロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル) ©A.S.O.
ツール・ド・フランス総合3位のロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル) ©A.S.O.

コンタドールは有終の美を飾れるのか?

忘れてはならないのが、2008年、2012年、2014年の覇者アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)の存在である。このブエルタを最後に引退を表明しているコンタドールも、有終の美を飾るべく誰よりもモチベーションの高い選手だ。
しかし、最近の走りを見る限り、やはり年齢的な衰えは否めない。特に厳しい登りの多いブエルタでは、その差が決定的に出てしまう。もちろん、落車などの事故さえなければ上位に食い込んでくるのは間違いないが、フルームやニーバリ、アル、バルデらと正攻法で戦ってはかなり分が悪いだろう。

このブエルタを最後に引退を表明しているアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)© RCS Sport
このブエルタを最後に引退を表明しているアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)© RCS Sport

イェーツ兄弟、チャベスのオリカがオモシロい

今年のブエルタで台風の目となるのが、オリカ・スコットだ。2016年に総合3位となったエステバン・チャベス(コロンビア)に、サイモンとアダムのイェーツ兄弟(イギリス)も加わり、総合優勝を狙ってくる。エースはチャベスだが、チャベスになにかあれば、サイモンもアダムもエースとして走れる実力を持つ。
いうまでもなく、アダム・イェーツは2016年の、サイモンは2017年のツール・ド・フランス新人賞ジャージを獲得した選手である。走るたびに強くなっていく2人が、いきなり大化けするということも十分に考えられる。今年のオリカ・スコットはかなりオモシロい。
反対に、ちょっとさみしいのがモビスターだ。昨年の覇者ナイロ・キンタナ(コロンビア)は、今回のブエルタには出場しない。また、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)も出場を見合わせている。カルロス・ベタンクール(コロンビア)やダニエル・モレーノ(スペイン)といった強豪は出場するものの、はやりフルームやニーバリと戦うのには、ちょっと布陣が弱いといわざるを得ないだろう。

ツールで新人賞を獲得したサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット) ©Orica Scott
ツールで新人賞を獲得したサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット) ©Orica Scott

2016年のブエルタ総合3位のエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット) ©Orica Scott

その他にも活躍しそうな選手がたくさん

その他、今年のツールで山岳賞を獲得したワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)やラファウ・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)、ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)、イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)など、活躍しそうな選手がたくさんいる。残念ながら今年は日本人選手の出場がなく、ユキヤやフミの応援を楽しみにしていたファンにとっては残念だが、多くのビッグネームたちが集まった今年のブエルタは、近年まれにみる好レースとなるだろう。

ツールで山岳賞に輝いたワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) ©A.S.O.
ツールで山岳賞に輝いたワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) ©A.S.O.
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WRITTEN BY仲沢 隆

仲沢 隆 自転車ジャーナリスト。早稲田大学大学院で、ヨーロッパの自転車文化史を研究。著書に『ロードバイク進化論』『超一流選手の愛用品』、訳書に『カンパニョーロ −自転車競技の歴史を“変速”した革新のパーツたち−』がある。

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