自転車旅が大好きなモデル兼トラベルライターの山下晃和(やましたあきかず)さんが、キャンプをしながらの自転車旅(バイク&キャンプといいます)の楽しみ方を伝える連載企画です。
ポイントは2泊3日。
この泊数を無理なく旅することができるようになれば、国内でも海外でも、長期間の旅でも問題なく楽しめるようになるという。とはいうものの、「どんな自転車が必要?」「必要なギアは?」「外で寝るの怖い(笑)」などなど、越えなきゃいけないハードルはいくつかあります。それらを初心者でもひとつずつクリアしていけるように、山下さんにはその旅のレシピを教えてもらう予定です。それではよろしくお願いします!
ロードバイクはキャンプに不向き?
普段から自転車に乗っている人であれば、どういった素材の自転車フレームがあるかは、おそらくご存じだとは思います。
大まかに分類すると、鉄、アルミ、カーボンの3種類、他にチタンという素材もありますが、これらにくらべて値段が少し高く数が少ないため、今回は3つの素材に絞って書かせていただきます。
前回はクロモリバイクがキャンプツーリングに向いているお話をしました。今回もその続きですが、最もキャンプツーリングに向いている自転車は、クロモリのロードバイクなのでしょうか?
じつは、一般的なシティサイクル、クロスバイク、マウンテンバイク、シクロクロスと比べたら、ロードバイクが1番不向きなのです。もちろん、できないわけではありません。
ロードバイクは、ロードレーサーとも呼ばれていて、レース向けの車両のため、兎にも角にも速く走れるように作られています。
つまり軽量化を意識して設計されているため、フレームの耐荷重はそれほど重視されていません。人間の体重とプラスαくらいのものでテストしているため、キャンプ道具の3種の寝具を積み、衣類や輪行バッグをプラスした荷物満載の状態で、長く乗ることを想定していないのです。
私もロードバイクが大好きで、レース、エンデューロ、トライアスロンなどにも積極的にトライしていますが、ロードバイクはやはりロードでのレースにふさわしく、キャンプツーリングをするには様々なテクニックや、3種の寝具の超軽量化を要するため、かえって難しくしてしまいます。
悪路を走るための強度が足りない
強度に関しても、レースで速く走ることに長けているため、数十年使い続けることもあまり考えられていません。
また、前面から風の抵抗を受けないよう、ポジションも限りなく前傾姿勢になっています。人間の腰椎は、回旋運動ができますが、前傾すればするほど横への可動域が狭くなってしまいます。身体が地面と平行になったときよりも、身体が起きた状態のほうが180度見渡せるのはやってみると分かると思います。
さらに、前傾すればするほど身体の可動域が制限されるので、荷物満載のサドルバッグや、バックパックを積載した場合は、バランスを取るのも難しくなってきます。これは当たり前ですが、遠くの景色をゆっくり眺めるのにも身体を起こしたほうが見やすいでしょう。
荷物を積載した状態ではブレーキが利きにくい
次に、ロードバイクは他の自転車に比べ、ブレーキの制動力が違います。種類としては、レースのルールの関係上、今はほぼサイドプルブレーキとなっています。最近は、ディスクブレーキのものがようやく出てきましたが。この2つの効きの差は歴然です。
サイドプルブレーキは、リムをゴムの付いたブレーキシューで挟んでスピードを緩めるもので、制動距離が長くなってしまうのです。雨が降っていたり、ドロドロのキャンプ場を走る際は、もっと止まりにくくなってしまいます。
そもそもロードレースでは、ブレーキの役目がストップというよりはスピードを緩めるためのものなので、急制動に特化していないのです。Vブレーキ、カンチブレーキ、ディスクブレーキに比べると、止まる能力は決して高くありません。
とはいえ、ブレーキ性能は、握った途端ガツンと止まるものが良いとは限らないそうです。JACC(日本アドベンチャーサイクリングクラブ)の評議員である鈴木邦友氏はこう述べております。「ブレーキについては、ブレーキレバーを強く握った時に強く効き、弱く握った時には柔らかく効くというのがよいブレーキです。」
硬いフレームはスピードを出すため
さらに、ロードバイクのフレームは、力が伝わりやすいように、硬めになっているものが多いです。これもスピードを出すためです。ある程度筋力があるサイクリストにとっては、クイックにパワーが伝わりやすいのですが、路面がデコボコのところでは手にダイレクトに振動が伝わったり、高い段差があるところでは一度降りなくてはならなかったり、長い時間漕ぐと身体に負担がかかってしまったり、不用意にパンクしてしまったり、トラブルになってしまいます。よって、初心者にとっては疲労の原因になってしまいます。
さらに、ホイールベースのことにも触れますが、タイヤが付いているホイールとホイールの間隔が狭いです。ロードレースで扱うロードバイクは、横から抜かしたり、後ろについたりといった競り合いをするため、車体をうまくコントロールするような設計になっているからです。
キャンプツーリングには安定性が大切
逆にキャンプツーリングの場合は、そういったイキナリ曲がったり、イキナリスピードを上げるような場面がないため、直進安定性が重要になってきます。真逆ですが、ホイールとホイールの間隔が広ければ広いほど、直進での安定感が出てきます。
ホイールベースが長ければ、後ろのキャリアにパニアバッグやサイドバッグを積載している際に、ペダリングをしているときに踵がバッグに当たらないという良さもあります。
と、ここまで書いてきましたが、使い方、荷物の積み方、プランニングの仕方によってはロードバイクでも、キャンプツーリングができないわけではありません。その方法についてはこの連載でも紹介していきますので、お楽しみに。
次回は、自転車の第二の心臓とも言えるタイヤについて考察するお話です。
●バックナンバー「バイク&キャンプのレシピ」
第1回 まずは旅に出てみよう!
第2回 テント、寝袋、マット。まずは三種の寝具をそろえるべし!
第3回 自転車旅に最適なテントとは?
第4回 ちゃんと眠れる自転車旅向けの寝袋とは?
第5回 キャンプツーリングに向いている自転車は?