モバイル変身自転車「iruka」高さ48cmを叶えたスリット入りフレームとは!?

スポーツバイクと同等以上によく走り、どの折りたたみ自転車よりコンパクトに、持ち運びしやすく。「iruka」という折りたたみ自転車、エッジの効いたフォルムが印象的だが、流麗なフレームが実現させたのは新幹線の座席におさまるコンパクトさ

随所でこだわり抜かれた機能美を見せる「iruka」の誕生秘話を、株式会社イルカ代表取締役である小林正樹さんに聞いた。東京発の「モバイル変身自転車」の真髄に迫る。

この空洞は一体!?「剛性×コンパクト」を実現させた画期的フレーム

iruka最大の特徴 "ジャックナイフフレーム"。なめらかなアーチ形状に、後輪を収めるための大胆なスリット。随所に機能美が宿る。
iruka最大の特徴 “ジャックナイフフレーム”。なめらかなアーチ形状に、後輪を収めるための大胆なスリット。随所に機能美が宿る。

2019年5月、まったく新しい折りたたみ自転車「iruka」が発売となった。トップチューブ中央部を大胆にカットしたスリットに後輪を格納することができる「ジャックナイフフレーム」が大きな特徴であり、折りたたみ時には高さ50cmを下回るコンパクト設計だ。一目で「何これ!?」と思わせる、インパクトの大きい一台である。

フレームに後輪が収まることで、高さ50cm以下という低身長を実現。折りたたんだ状態で前後輪を転がしラクラク移動できる。
フレームに後輪が収まることで、高さ50cm以下という低身長を実現。折りたたんだ状態で前後輪を転がしラクラク移動できる。

作ったのは株式会社イルカの創業者/代表取締役である小林正樹さん。簡単にプロフィールを記すと、静岡県生まれ。慶応大学を卒業後、森ビル勤務を経てインターネット広告代理店である株式会社オプトの創業メンバーに参画。2008年に同社を退社したのち、株式会社イルカを立ち上げた。

オプト時代は取締役CFOとして財務を中心とした管理部門全般、上場準備責任者などを担当。もう一度ゼロから起業して、人生を賭けるに値するチャレンジこそ「折りたたみ自転車」だった。
オプト時代は取締役CFOとして財務を中心とした管理部門全般、上場準備責任者などを担当。もう一度ゼロから起業して、人生を賭けるに値するチャレンジこそ「折りたたみ自転車」だった。

*iruka誕生までの軌跡を辿る開発ストーリーは近日公開予定。

4形態にトランスフォームする折りたたみ自転車

4形態にトランスフォームする折りたたみ自転車
小林さんはirukaのことを、シーンに合わせて4つの形態に姿を変える「モバイル変身自転車」と呼ぶ。1つめは驚きの走行パフォーマンスをみせる「ラン」モード。2つめは駐輪などで便利な”お座りスタイル”の「ウェイト」モード。3つめはキャリーカートのように転がして移動できる「ウォーク」モード。4つめは完全に折りたたんだ「スリープ」モードで、W78×H48×D35cmに収まる。
街乗りに最適な優れた走行性を備えながら、一般的な折りたたみ自転車と比べて30%小さく折りたたむことができる斬新なモデルだ。

注目の折りたたみ機構。一見してブロンプトンタイプかと思いきや、③でぐっと身長が低くなることがわかる。
注目の折りたたみ機構。一見してブロンプトンタイプかと思いきや、3でぐっと身長が低くなることがわかる。

irukaとのストーリーを想像してみたい?全34シーンのブランドコンセプトムービーで、きっとあなたのイメージも膨らむはず。

*編集部註:スポーツサイクルに乗る際はヘルメット着用を推奨

既存の折りたたみ自転車が満たしてくれない3つの課題

irukaの設計を始めるにあたり、小林さんは「どんな自転車が欲しいのだろうか?」と自問したという。そこで浮かんだ条件は3つ。
まずは、これも折りたたみタイプであるD社のミニベロを使った通勤経験から、街乗りに適したものを作りたい。そして折りたたみ形状が収まりのいいもの。あとひとつ、折りたたんだ状態で持ち運びが楽なのがいい。

街乗りに最適=漕ぎ出しと変速

小林さん「まず街乗りって発進と停止、加速と減速が多い。かつ、東京は意外にアップ&ダウンも多い。それを自転車の機能に落とし込んでいくと、まずはペダリングの漕ぎ出しが軽くて止まりやすい。そして変速がしやすい。これが条件かと思いました」

アップダウン、ストップアンドゴーの多い街中。漕ぎ出しが軽く、キュッと止まれて、変速ももたつかない、確かに必要要素だろう。
アップダウン、ストップアンドゴーの多い街中。漕ぎ出しが軽く、キュッと止まれて、変速ももたつかない、確かに必要要素だろう。

課題のひとつは、折りたたみ自転車のフレーム剛性。折りたたみ自転車の多くが取り入れている横に二つ折りするタイプは、背骨部分ともいえるトップチューブ上にヒンジ(蝶つがい)が存在する。またハンドルポストが長く、そこにもヒンジがある。そうした構造だと、強く踏み込むとしなりが発生してしまう。漕いでも漕いでも砂浜を歩くように力が吸収されてしまって、よく進まないという弱点があるのだ。

真ん中から折りたたむにはどうしてもトップチューブ上にヒンジが必要になる
真ん中から折りたたむにはどうしてもトップチューブ上にヒンジが必要になる

小林さん「そうした観点から、トップチューブとハンドルポストの部分にヒンジがない自転車がいいだろう、と。あとブレーキはディスクブレーキが止まりやすい。また変速機は内装と外装のふたつがありますが、止まっている状態でも変速操作ができてメンテナンスも楽なことから、街乗りには内装がベストだろうと思いました」

ヒンジのないトップチューブに差し込み式のハンドルポスト(左)、内装8段の変速機にディスクブレーキ(右)
ヒンジのないトップチューブに差し込み式のハンドルポスト(左)、内装8段の変速機にディスクブレーキ(右)

デスクでの60cm、新幹線での50cm

2つめの課題、「折りたたんだ状態で収まりが良い形状」とは?

折りたたんだ状態で収まりが良い形状
小林さん「最初に思ったのは高さ60cmに収まるようにしたかった。というのも、一般的な事務机は引き出しの裏面から床面までが62cmなんです。オプト時代、自転車は空いてるスペースに置いていました。役員だと誰も文句言えないじゃないですか(笑)。でも、成長期にあった会社は人員が増え続け、段々スペースがなくなってきた。さすがにこれ以上増えたら、机の下に入れるしかないと思ったんです。でも当時使っていた自転車は高さ65cmほど、ギリギリ入らなかった」

irukaは60cmを下回ることを目標にしたが、設計を進めているうちに「どうせなら50cmを下回りたい」と思うようになった。

実際irukaの折りたたみ時の高さは、驚きの48cm!
実際irukaの折りたたみ時の高さは、驚きの48cm!

小林さん「新幹線でどこかに輪行するとします。新幹線の座席って、前の席までの長さが50cmなんですよ。そうなると自席に自転車は置けないので、車両の最後尾のスペースに置くしかない。でも、もう誰かがスーツケースなどを置いていたら、デッキで持っていなければならない。だから50cmを下回っていて足の間に縦置きできれば、自分の席に置いてもドキドキしないで済むなと思った」

自転車をデスク下に、さらには新幹線の自席に置けるなんて…!このコンパクトさが切り拓く自転車シーンを想像すると楽しくなってくる。
自転車をデスク下に、さらには新幹線の自席に置ける*なんて…!このコンパクトさが切り拓く自転車シーンを想像すると楽しくなってくる。

*)日本のほとんどの鉄道路線では、列車内へ自転車を持ち込む際は輪行バッグに完全に収納する必要がある。

されど10kgを越える手荷物、持ち運びは転がしたい

もうひとつの課題は「折りたたんだ状態で持ち運びやすくしたい」ということ。

小林さん「オプトのオフィスがあった大手町ビルって、やたら横に長いんですね。横幅が200m以上ある。エレベーターの稼働しない夜間は、当時10kgの折りたたみ自転車を200m運ばなければならない。だから、転がして運べるようにしたかった。」

転がして運べる
「移動用にコロコロがついた自転車もありますが小さいと転がしにくいし、そもそも自転車って前輪・後輪のふたつがあるのにコロコロを使うのって不合理じゃないですか。そう思って、前輪・後輪を使って運べるようにしたかった」

条件がまとまった。トップチューブとハンドルポストにヒンジがない。折りたたんだ高さが50cm以下。前輪・後輪が折りたたんだときに同軸で平行、かつどこにも触らずフリーな状態……。そういうものを作りたいと考えがふくらんだが、言うは易し。
プロダクトデザイナーと1年近くブレインストーミングを続けてきたが、肝心の折りたたみ機構のアイデアはなかった。それを解消したのは2007年の年末。友人の結婚式に出席したときのことだった。

「これだ…!」ソムリエナイフからの閃き

小林さん「披露宴でワインをつがれたとき、スタッフの持つソムリエナイフに目が止まりました。それを見た瞬間『これだ!』と思ったんです。ソムリエナイフってアーチ状になっていて、その間に溝が掘ってある。その溝にナイフとかスクリューが収まり、長方形にコンパクトになる。その仕組みをヒントに取り入れたのが、折りたたんだとき後輪をトップチューブの間に収めるジャックナイフ・フレームでした」

アーチ状、溝、フィット。コンセプトは両者とも同じ。
アーチ状、溝、フィット。コンセプトは両者とも同じ。

「おへそに後輪をしまう」想いがつまった折りたたみ機構

「おへそに後輪をしまう」折りたたみ機構
折りたたみ方法は、左右対をなして弧を描くジャックナイフ・フレームの中央スリットに後輪を格納する方式。トップチューブにヒンジはなく、ハンドルポストも差し込み式のためヒンジがない。工具いらずのワンタッチで素早く姿を変え、ユーザーの移動能力を大きく拡張する。

4つの形態へとトランスフォームしながら、どんどんコンパクトになっていく

その詳しくは動画でチェックしてもらいたい。
4つの形態へとトランスフォームしながら、どんどんコンパクトになっていく様はある種の高揚感すら覚えるだろう。

irukaの特長

  • 革新的フレームを実現させたアルミ素材と独自パーツ
    革新的フレームを実現させたアルミ素材と独自パーツ
    まず素材は強度と軽さのバランスに優れる6061アルミニウム合金を採用。特徴的なフレームを形にするため、構成部品をほぼすべて独自に金型から作り出している。EN・JIS基準の強度テストをパスし、ひと目見たら忘れられない美しさを両立。毎日乗っても飽きずにヘコたれない設計となっている。重量は11.9kg(ペダル・カプラー除く)。
  • スポーツミニベロとして妥協のない走り
    車輪は18インチ。車輪が小さいからと言って遅いわけではない。ペダルを一回漕いで進む距離は、車輪の周長×ギヤ比で決まる。irukaの場合、トップギヤに入れて一回漕ぐと6.8m進む。一般的なママチャリは26インチが主流だが、一回漕ぐと4.7m。車輪が小さいirukaのほうが1.5倍ほど長く進む。

    スポーツミニベロとして妥協のない走り

  • 停止中でも変速操作のできる内装8段ギア&雨天にも強いディスクブレーキ
    コンポーネントはシマノ・アルフィーネの内装8段変速。平坦路での高速巡航から急な登り坂まで幅広く対応する。また、制動力と操作性の双方に優れた機械式の小径ディスクブレーキ(140mm径ローター)を配備。天候にかかわらず、安心して乗ることができる。

    停止中でも変速操作のできる内装8段ギア&雨天にも強いディスクブレーキ

  • 片持ちフロントフォーク&リアサスペンション
    フロントフォークは新開発テレスコピック*折りたたみ機構を内蔵した、左側一本の大胆な片持ち式。また、後輪を折りたたむとリアフレームの前端部がスタンドとなって自立を可能とする。メインフレームとのジョイント部にはエラストマーサスペンションを装着。走行時の微細な振動を吸収してくれる。

    *)重なり合った筒が伸び縮みする構造のこと

    片持ちフォーク(左)と、スタンド機能つきのリアフレーム部分とサスペンション(右)
    片持ちフォーク(左)と、スタンド機能つきのリアフレーム部分とサスペンション(右)
  • 剛性の高められたハンドルまわり
    そして多くの折りたたみ自転車の弱点であるステム根元周辺の剛性は、やはりテレスコピック折りたたみ機構によって飛躍的に高められた。ハンドルポストは高さの調節が可能となっており、幅広い乗車ポジションに対応する。

    ハンドルポスト自体にはヒンジがなく、差し込み式で高さ調節が可能。
    ハンドルポスト自体にはヒンジがなく、差し込み式で高さ調節が可能。

アクセサリーでトランスフォームはさらに拡張する

アクセサリーでトランスフォームはさらに拡張する
折りたたみ自転車にも荷物を載せて走りたい——そんなユーザーの願望にもirukaは応えてくれる。まったく新しい発想で、小径自転車特有のスペースを活かした3種類のキャリア・アクセサリーを後日販売することを予定しているのだ。

カート兼用コンパクトトレーラー:iruCart

カート兼用コンパクトトレーラー:iruCart
「iruCart」はサドルに取り付けた付属のカプラーで繋いで牽引するコンパクトトレーラー。取り外せばキャリーカートのように転がして持ち歩くことができ、スリープモードのirukaを載せて運ぶことも可能だ。最大積載量は15kg。

吊るすキャリア:iruCarry

吊るすキャリア:iruCarry
「iruCarry」は上記「iruCart」同様に、サドルのカプラーと後輪の間の空間に吊り下げる着脱式のリアキャリア。何でも気軽にくくりつけて走ることができる。荷台部分は全長45cm、最大5kgまで積載可能。

最小ミニマルキャリア:iruCatch

最小ミニマルキャリア:iruCatch
「iruCatch」はハンドルポストに取り付けるバッグ用の着脱式ホルダー。前後、取り付け位置を調節することで、様々な大きさのバッグに対応する。スーパーなどでの買い物袋にも対応する便利な、最大積載量3kgのアタッチメントだ。

まとめ

自転車乗り以外の、新しいガジェット好きな人にも訴求力がありそうなiruka。気になる価格は¥212,800(税抜)。競合ブランドのハイエンドモデルとほぼ同様だ。当初は東京と横浜の都市部9店舗で販売。将来的には日本全国、そして海外展開も視野に入れている。
こんな自転車を作りたい——まっさらなゼロの地点から夢をカタチにしたirukaだが、まだまだやることはたくさんある。日本のベンチャー企業が世界を相手に勝負する。そんなストーリーを期待したくなるのがirukaなのだ。

All photos(C)イルカ
LINK:iruka

増渕俊之

WRITTEN BY増渕俊之

出版社勤務を経て、フリーランスの編集/ライター。編著に『これがデザイナーの道』『自転車ファンのためのiPhoneアプリガイド』『岡崎京子の仕事集』がある。現在、編集を手がけた岡崎京子の単行本『レアリティーズ』が発売中。

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