日本のシェアサイクル戦国時代へ〜Mobike、ofo、メルカリ、DMM.comなどが新規参入、迎え撃つドコモは?
目次
中国シェアサイクルに刺激されて
中国を飛び出し8月23日に札幌でサービスインしたMOBIKE(モバイク)、9月以降に東京と大阪でサービスを開始するofo(オッフォ)に続いて、9月7日にメルカリがシェアサイクル参入を発表、翌8日にはDMM.comが、そして9日にはサイブリッジが名乗りを上げた。
立て続けに参入発表があったのは決して偶然ではない。いち早く参入して自治体との協力体制を作った企業が有利だからだ。他社の後塵を拝する前に動け、である。具体的な参入時期や内容が決まっていないのもそのためだ。
以前この稿で日本のシェアサイクルは周回遅れだと評した。放置自転車対策に明け暮れた歴史的経緯から、ある程度やむを得ないのだが、一気に汚名返上のチャンス到来である。ここに来て世間の耳目が集まって来た。中国から黒船と呼ぶべきモバイクがやって来て、事業を開始したという実績が多くの自治体の興味を掻き立てている。
放置自転車が増えないかという不安はありつつも、どうやら自治体の懐を痛めずシェアサイクルを始められるらしい、という噂が加速している。台風の目になりつつあるシェアサイクル最前線を追ってみたい。
追われる既存シェアサイクル
Mobikeを迎え撃つ札幌のシェアサイクル「ポロクル」。社会実験を終え、本格導入されて6年目となる昨年には認定NPO法人を取得して、ますますの飛躍を祈念した矢先にモバイクの洗礼を受けることになった。モバイクのサービス開始エリアとポロクルのサービス提供エリアは離れているが、将来的に両社入り乱れての戦いになることが誰の目にも明らかだ。
ポロクル事務局長の熊谷美香子さんは「どうなるか先は見えないが、使用する自転車の性能はポロクルが上。軽いし、変速機も付いている。今後は差別化を図って利用者に選ばれるシェアサイクルを目指す」と語ってくれた。
同社は地元スタッフの苦労に支えられて続けて来た意地があり、簡単には負けを認めたくない。街の観光魅力作りや安全啓発活動を地域と連携して進めており、差別化が利用者に受け入れられるかどうかに勝負がかかっている。
東京都内に約300ポート、約4,000台のシェアサイクルを運営するドコモ・バイクシェア。
ポートと運用台数が充実し、ここ数年で利用者は急増している。ただ、パリの約2万台やロンドン、ニューヨークそれぞれ約1万台と比較すると世界有数の大都市としては寂しい限りの運用規模だ。
ドコモ・バイクシェア(以下ドコモと略)営業推進部長の小澤克年さんは以前、「あまり儲からないが社会インフラとして世のため人のために努力したい」と語ってくれたが、急速な事業環境の変化に同社はどのように対応していくのか。電動アシスト自転車を使ったシェアサイクルの課題は多い。
電動アシスト自転車SUISUIを製造しているカイホウジャパンがワイヤレス充電モジュールを開発しているので、技術導入を早急に進めてポート間の再配置スタッフによる手作業でのバッテリー交換をやめ、人件費を削減すべきだろう。
東京の街は北京や札幌と違って坂が多い。その点では守るドコモが有利だが、攻めるモバイクも順次新しい自転車の開発に努めると記者発表で述べていた。さすがに電動アシストはおろか変速機すらない自転車を投入しても敬遠されるだけだ。
今後、シェアサイクルは具体的にどうなっていくか
今後の展開として想定できるシナリオは3つある。
シナリオ1「東京都がドコモのシェアサイクルを一括買い上げ、公共交通機関の一つになる」
ドコモを採用した各区のシェアサイクルは社会実験の段階にあるが、本格導入に当たっては各区で所有するシェアサイクルを都が一括で買い上げ、山手線内及び五輪会場付近だけでもポートを網羅し貸し借り出来る状態にする。まずは1万台の大台まで持っていかないことには真に使えるサービスなど望めないからだ。
その上で必要なことは、大儲けできないまでも赤字は出さないスキームを確立すること。公共交通機関のひとつとしてドコモで固めて行く。これから参入する各社も入り乱れての戦いになるが、最低限ドコモの赤い自転車なら山手線内どこでも行ける状態にしておく。これがひとつ目のシナリオ。
シナリオ2「海外からの観光客に利がある新興勢力シェアバイクが勝つ」
煩雑な登録システムの弱点を突かれ、スマホ決済システムが市民や外国人に熱烈歓迎されたら社会実験のままサービスが終了し、ドコモに運営委託されたシェアサイクルの本格導入は見送られて、民間主導のシェアサイクルが天下を取る2つ目のシナリオが見えて来る。
観光立国を標榜する国としては2,000万人を超えた海外からの観光客をいずれ4,000万人に、将来的には6,000万人へと増やす構想を持っている。
受け皿作りは自転車においても待ったなしである。日本中を電車や飛行機とシェアサイクルの組み合わせで見て回りたいと考える外国人は多いはず。海外に多くの会員を持つモバイクやオッフォなど新興勢力が東京で一気に勝負を掛けて来る可能性が高い。メルチャリもDMMバイクシェアもウィサイクルも狙いは同じ。これが新興勢力各社の描くビジョンだ。
シナリオ3「全部中途半端に終わり、誰も使えないサービスが残る」
3つ目は想像したくもないが、各社が入り乱れてカオス(混沌)状態に陥る可能性も否定できない。むしろ今のままで進めば、一番ありそうなのが最後のシナリオだ。
各社とも中途半端で使えないサービスを独自に進めてしまって、結局誰も得をしない最悪の結末に向かう。
失敗点から学び、真に使えるサービスが提供されるのであれば、利用者側はプレイヤーが誰でも構わない。
ドコモ社員は赤い自転車以外に乗らないだろうが、その他の大勢はこだわりなく目の前にある自転車を借りて乗って行く。実際、中国の市民はシェアサイクル各社のアプリをスマホに入れておき、目の前にあるシェアサイクルのアプリを立ち上げて借りていた。
ただ中国では一部を除き、どこでも借りられて、どこでも返却できるから成功した。ポートがどこにでもある状態ではなく、またポートが目的地付近になくて返却できないと分かれば、誰も怖くて借りないだろう。その意味でポート数の拡充およびメッシュ(ポート間隔)の細かさが実質の勝負になる。
都心のデッドスペースを活用するアイディアを新たに提案した「みんちゅう」とのコラボが必須になると思われる。
いずれにしても2020オリ・パラの前年までが勝負だ。とすれば、あと2年である。受けて立つ側の顔ぶれが見えているだけに同情を禁じ得ないが、飛躍のチャンスと前向きに捉え「期待されるサービスとは何か」を考え抜いてもらいたい。
モバイク、オフォなど新興勢力に勝ち目はあるか
にわかにプレイヤーが続出したシェアサイクル業界だが、これから参入する上で先行するサービスに対抗する手段は講じてあるのだろうか。
ひとつ感心したのがモバイクの信用ポイントシステムだ。
中国本土と異なり、放置対策を長年やって来た日本ではポート間を結ぶ運用にせざるを得ない。自社の自転車がどこにあるかGPSで把握でき、クレジットカードと紐付けして本人特定できるので、それを武器に放置対策を講じて乗り込んで来た。
ポート以外の場所に停めた自転車を発見した人が写真に撮って送れば、通報した人に信用ポイントが付与される。逆に通報された人からは信用ポイントが差し引かれる。つまり告発システムである。内部告発(チクリ)が得意な日本人向きの恐るべき強制力を持ったシステムではないか!
実は中国本土でも既に実験が始まっており、いずれは信用ポイントが足りなくてローンが組めない人が出て来そうだと聞く。間違いなく新興他社も便乗するに違いない。何しろIT業界出身の若い経営者ばかりだから、こんなことは朝飯前なのである。
信用ポイントや利用ポイントが貯まれば提携するECサイトで買い物をすることもできる。例えばメルチャリで貯まったポイントをメルカリで使えると分かれば、メルカリヘビーユーザーはメルチャリしか乗らなくなるかもしれない。顧客の囲い込みまで彼らは視野に入れている。
変化に対応して進化すべきだ
先行する各社は戦々恐々だが、市民は冷静に見比べて自分にとって最もメリットのあるサービスを選ぶ。それが自然なあり方だし、理屈抜きにそうなって行く。生みの苦しみはあるが、供給者側の論理を押し付けてしまっては勝負にすらならない。利用者の目線に降りてみて何が足りないか改めて検証すべきだ。
近年、中国では自転車が過去の乗り物となっていたが、昨年から再び多くの市民が乗るようになった。本当に便利でリーズナブルだから誰に強制されなくても乗るわけだ。
日本では日本流の運用になるけれどもシェアサイクルが普及して自転車への関心が広がって欲しい。
パリのヴェリブが始まる際、ある自転車店が「新車が売れなくなる」と悲鳴を上げたが、蓋を開けてみるとヴェリブは重くてダサいから格好いい自分専用の自転車が欲しいという人が増えて売上が伸びた。老舗カフェのオーナーは景観が悪くなるから自店前にポートを置くのはやめて欲しいと訴え設置を免れたが、ライバル店がポートを設置して売上が伸びたと聞くと手のひらを返して設置を要求したそうだ。
誰しも初めての経験は怖い。やみくもに利用者が増えてルール違反や事故が増えるのも困るが、今の流れを止めることはできない。行政側も素早い対応が求められている。
あと2年の間に新旧プレイヤーたちが切磋琢磨して、恥ずかしくない状態で外国からお客様を迎えられ、おもてなし出来るようにしたい。歴史の証言者として日本にシェアサイクルが根付くかどうか、読者の皆様と一緒に見届けたい。
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