大きな可能性を秘めたカーゴバイク、普及に向け改訂すべき法律と認識とは

再び自転車が荷物運搬の主役に?

日本では高度経済成長期が始まるまで自転車が荷物運搬の主役だった。筆者の祖父はミシン販売業を営んでおり、荷台にミシンを載せて遠方の得意先まで運んでいたそうだ。

昔懐かしい紙芝居を積んだ自転車

また筆者の住んでいた団地には紙芝居のおじさんが自転車で回って来たし、材木商にはサイドカー付き自転車があって、かつてはそれで配達したのだろうが、やがて軽トラックなどに置き換えられてしまった。

材木屋にあったサイドカー付き自転車

それから時代が何回転かした。都会では住宅地で配達する軽トラックが駐車場の問題もあって激減した。代わりに電動アシスト自転車でリヤカーを引いて走る姿が当たり前になって久しい。

PAS GEAR CARGO

▲宅配用電動アシスト付き自転車 画像出典:YAMAHA

従来アシスト率が踏力1に対して2倍までだったのが2017年10月30日から宅配用自転車に限り3倍までに緩和されたことを受けて、今後ますます自転車で宅配するケースが増えるだろう。クルマで配達するより環境に優しいし経費も抑えられる。

ただ1点だけ苦言を呈するとすれば、宅配用自転車で歩道を走る行為は違反だということ。歩道を通行してもいいのは全長190cm、幅60cm以下の普通自転車のみ。しかも徐行が前提だ。せっかくエコな自転車で配達しているのに、堂々と違反していたらもったいない。

車道左側を軽車両として走る分には全く問題がないし、幅があるから左右にウインカーを付けても後方から正しく認識できる。どんどん増えて車道左側を走ってくれたら「ひっかけそうだから距離を空けて追い越そう」とクルマ側の意識も変わるはず。

宅配各社は社員研修などでリヤカー付き自転車の運転者に対し歩道通行は違反だと強く指導して欲しい。事故が起きてからでは遅すぎる。大手各社は今すぐリスク回避策を取ってもらいたい。

実は区分があるキャリア(荷台)の許容重量

ところで自転車の後部に付いているキャリア。一体、どれくらいの重量まで荷物を載せて走っても良いか、ご存知だろうか?

法的に言えば30kgまでだが、キャリアに許容重量が刻印されており18kgまで(クラス18)、25kgまで(クラス25)、27kgまで(クラス27)のどれかである場合が多い。この中でチャイルドシートを搭載できるのはクラス25とクラス27で、クラス18には載せられない。

同じように見えても許容量がちがう 画像出典:株式会社日東
▲同じように見えても許容量がちがう 画像出典:株式会社日東

前後にチャイルドシートを備えた子育て家庭の必需品、3人乗り自転車は低重心で頑丈な専用フレームに加え、親子3人と自転車本体の合計で100kg超にもなる重量物なので、握力の弱いお母さんでも止められるよう高性能ブレーキが採用されている。

ではクイズ。3人乗り自転車に親子合わせて何名まで乗車が許されるだろうか? 3人乗りだから3人という答えだとクイズにならないから当然3人ではない。正解は後述する。

スポーツバイクにはキャリアを付けない場合が多いから、荷物の運搬には苦労を伴う。筆者も買い物へ行くときは前後にカゴが付いたママチャリに乗る。スポーツバイクの場合は両手が自由に動かせるようにリュックタイプのバッグを背負うケースが多いけれども、積める荷物は限定的だ。

積載量が足りない分をハンドルに背負わせる形で買い物袋を左右から掛けて乗る人がいるが、絶対にやめよう。荷物が前輪に巻き込まれて過去に何人も大ケガをしている。考えれば分かりそうなものだが、とにかく早く帰りたくて思考回路が停止してしまうようだ。

こんな乗り方は危険極まりない

前輪がロックするとカラダが前に放り出され顔面や、頭から落ちる。運が悪いと死に至ることもある。荷物は正しくカゴに入れよう

カーゴバイクが日本で流行らないワケ

カゴと言えば、ヨーロッパの街角で頻繁に見かけるニホラやクリスチャニアといった大きな荷物が積めるカーゴバイクを輸入して、日本で乗る場合は法的に最大何kgまで積めるだろうか?

ニホラで子供とおでかけ 画像出典:Nihola
▲ニホラで子供とおでかけ 画像出典:Nihola

カバーを装着したクリスチャニア

こちらは複雑怪奇で難しい。荷物を載せる装備に注目してリヤカーの仲間とみなせば120kgまで許されるが、分割できないから自転車だと分類されたら30kgまでしか載せられない場合がある。カタログに最大100kg積載できると書いてあってもだ。

国として、そういう自転車を想定していなかったという事情はあるにせよ、実力の半分も発揮できないのでは日本でカーゴバイクが普及するはずもない。

大きな荷物を積めるカーゴバイクがリーズナブルに購入できればクルマの代わりに物流面で大きな役割が果たせる。現にヨーロッパの各都市では郵便配達や子どもたちのトランスポーターとして大活躍しているのだから日本でもっと走り回ってほしい。

車いすの運搬も可能! 画像出典:Nihola
▲車いすの運搬も可能! 画像出典:Nihola

今の流れから行けば、近い将来きっとカーゴバイクが注目を浴びる時代が来る。多くが前2輪の3輪自転車なので、全長はともかく当然ながら幅60cmという普通自転車の枠には収まらない。宅配用自転車同様、日本でカーゴバイクに乗る以上は車道左側走行が原則だ。

県ごとに立ちはだかる壁、速やかな統一規定の制定を

先に「載せられない場合がある」と書いた。実は、タンデム自転車と同様に自転車の最大積載量についての規定も県ごとに違っている

東北7県には普通自転車とリヤカー以外に重荷用自転車(特別な構造を有する等を含む)の規定があり65kgまで搭載してよいとされている。65kgと言えば成人男性の平均体重なのでヒト1人分載せられるが、座席のないカーゴバイクの荷台に荷物だと言い張ってヒトを載せるのは違反。

一方、座席を装備した場合の規定も曖昧で、運転者以外にヒトが乗れるかどうか各県の公安委員会に訊いても回答が一定しない。

大人用座面付きニホラ 画像出典:Nihola

これはチャイルドトレーラー等と呼ばれるリヤカーも同様でリヤカーはヒトが乗る前提になってないとのことだが、想定外だったから新たに検討すると言った方が潔い。実際は、座席があれば載せて走ったって構わない。

チャイルドトレーラーを体験する親子

さて、重荷用自転車の規定があるのは農産県だからなのかと思いきや、意外なことに北海道の道路交通規則には規定が見当たらない。同様に関東6県や米どころの新潟県にもないが、中部地方以西では県によって同様の規定があり、全て60kgまでとなっている。

またしても同じ法律(道路交通法)に則っているのに、カーゴバイクで本州を南下した場合に東北のA県は65kgまで荷物を積んでも構わないが関東のB県に入ると30kgに制限されてしまい、中部のC県まで行けば60kgまでOKとなるわけだ。何だか、おかしなことになっている。意味のない重量規制は早い段階で撤廃することを望む

ミルク運搬車をルーツにする変わり種も

オランダは自転車王国として有名だが、同時にゴーダやエダムといった有名なチーズを産する酪農王国でもある。

1930年頃にミルク缶運搬に使用する独特なロングジョンと呼ばれる形状の自転車が生み出され、改良を加えられて生き残っている。特徴として前輪と後輪の間にカーゴ・スペースがあり、一見すれば忘れられないロングホイールベースの自転車だ。

特徴的なルックスのロングジョン 画像出典:自転車博物館毎週日記
▲特徴的なルックスのロングジョン 画像出典:自転車博物館毎週日記

現存するメーカーはデンマークにあって、「ブリッツ」のブランドでミルク運搬車の特徴を見事に残した独特なカーゴバイクを製造・販売している。

▲ブリッツ製のカーゴバイク 画像出典:Larry vs Harry
▲ブリッツ製のカーゴバイク 画像出典:Larry vs Harry

ミルク缶はローソンのロゴマークにも見られるが、ロングジョンは9ガロン(約34L)入り缶2つを載せられるように開発された。ブリッツを運転した人に聞くと全員がロングホイールベースを意識させない、扱いやすさを強調するのが興味深い。低重心であることも影響しているのだろう。

アフターパーツが多数存在するので色々と試すことができるのも魅力のひとつである。当然ながら電動アシスト・バージョンがある。

前に1人、後ろにも1人そして

2009年、送迎する親たちの猛反発に警察が押し切られる形で3人乗り自転車が認められたのは子育て家庭にとって朗報だったが、子どもたちにとっても朗報だったかどうかは分からない。

ただ3人乗り電動アシスト自転車という新しい稼ぎ頭が生まれたのは確かだし、そのおかげで国産メーカー各社が活路を見出せたのも紛れもない事実だ。

▲登場当初の3人乗り自転車。前輪22インチ、後輪26インチと重心が高め

▲登場当初の3人乗り自転車。前輪22インチ、後輪26インチと重心が高め

その後、進化してタイヤは20インチが主流となり、大型スタンドも付属して倒れにくくなった。重心が下がったのでチャイルドシートから落車した際のリスクも以前に比べると低下している。

新型の3人乗り電動アシスト自転車はタイヤサイズが20インチと低重心でスタンドも大きい 画像出典:パナソニック
▲新型の3人乗り電動アシスト自転車はタイヤサイズが20インチと低重心でスタンドも大きい 画像出典:パナソニック

自転車の乗車人員の制限について東京都道路交通規則を見ると、こう書いてある。(抜粋)

  • 二輪又は三輪の自転車には、運転者以外の者を乗車させないこと。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りではない。
  • 16歳以上の運転者が幼児2人同乗用自転車(中略)の幼児用座席に幼児2人を乗車させるとき。
  • 16歳以上の運転者が幼児1人を子守バンド等で確実に背負つている場合の当該幼児は(中略)当該16歳以上の運転者の一部とみなす。

お分かりだろうか? つまり16歳以上の親が2人の子どもと3人乗り自転車に乗った上で、背中に1人おぶって運転しても許されると書いてある。最大4人、これがクイズの答えだが、運転者の一部とみなすという表現がいかにも役所的で笑える。

正しい認識で開けるカーゴバイクの未来

電動アシスト自転車が幼児の送迎に大活躍する一方で、歩道上を高速で音もなく走るため、とりわけ高齢の歩行者からは怨嗟の声が絶えない。

お子さんを乗せることが歩道を徐行せずに済む免罪符になるかと言えば、当然ならないワケで、スピードが出ていれば高性能ブレーキを備えていても急には止まれないし、前後2輪だからバランスを崩せばコケる。

座席付きカーゴバイクなら転倒することはないし、子どもたちも大喜びだ。さすがに最初は乗ったこともない上に地面が近いので緊張した面持ちだが、15分間も乗っていれば楽しくなって降りなくなる。

初めての体験なのか子供たちは緊張気味だ

ヨーロッパで子育て中の親たちが子どもたちをカーゴバイクに乗せて送迎したり、買い物をしたりするように、将来は日本でも当たり前になることを期待している。

本来、大きな荷物は自転車の苦手分野だが、カーゴバイクが普及すればクルマの出番を更に減らすことができ、親世代のダイエットにも貢献できると思うのだが…。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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