2017ツール・ド・フランスを振り返る|やっぱり強かったフルーム、しかし尊敬は得られなかった!?

7月23日、ツール・ド・フランスはパリ・シャンゼリゼにゴールし、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の3年連続4回目の優勝で幕を閉じた。終わってみれば、フルームの圧勝に終わった感のある今年のツールだが、一方でフランス人の観客が多く集まる場所でフルームに対するブーイングが多かったことも印象に残った。なぜフルームは観客の尊敬が得られないのか。その辺を中心に論じてみたい。

パリ・シャンゼリゼを快走するクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) ©A.S.O.
パリ・シャンゼリゼを快走するクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) ©A.S.O.

フルームへのブーイングはなぜ起こるのか?

今年のツール・ド・フランスを観戦していて、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)に対するブーイングが気になった方も多いのではないだろうか? いくらフランス人選手が総合優勝できないからといって、ブーイングはひどい。そんなふうに思った人も多いだろう。たしかにフェアであるべきスポーツで、他国の選手に対するブーイングというのは、あまり気持ちの良いものではない。しかし、ここではフランス人の立場にたって、彼らがブーイングをしてしまう心理を考えてみたい。

まず根底にあるのは、多くのメディアで論じられている通り、1985年のベルナール・イノー以来、フランス人選手の総合優勝がないというフラストレーションである。なんとイノーの優勝から32年もたっているわけであるから、これは相当なものだろう。

しかし、それだけの理由だったら、そのブーイングはあまりにも自己中心的な印象をうけてしまう。問題は、そんなに簡単ではないはずだ。

アシストとして大活躍したミハウ・クヴィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)をねぎらうクリス・フルーム ©A.S.O.
アシストとして大活躍したミハウ・クヴィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)をねぎらうクリス・フルーム ©A.S.O.

過去にはもっとひどい事件も

ここでツールの歴史を振り返ってみよう。
1975年のツール・ド・フランスでは、地元フランスのベルナール・テヴネが絶好調で、フランス中が彼の初優勝を期待した。そこで最大のライバルになるのが史上最強の選手エディ・メルクス(ベルギー)の存在だ。事件は第14ステージの登りゴールで起こった。興奮したフランス人のファンが、こともあろうにメルクスの脇腹にパンチをしたのである。メルクスは脇腹を抱えながら苦痛の表情でゴールしたが、結局この年のツールは、この手痛い洗礼の影響もあり、テヴネの総合優勝に終わっている。

こういった「洗礼」の例は枚挙にいとまがない。
1904年には、山岳ステージでアタックしたフランス人選手を助けるために、たくさんの観客が結託して、追ってくる外国人選手たちの行く手をあからさまに阻んだということさえある。当時のツールは「スポーツ」というよりは、「冒険」であり、「荒くれ者たちの賞金稼ぎの場」であり、「フランスの祝祭」であった。そこには、「よそ者は、調子に乗るなよ。空気を読んで、フランス人を盛り上げれば、すべて丸く収まる」というフランス人たちの価値観があった。考えてみると、ブーイングというのは、当時と比べればずっと手ぬるいともいえるのである。

メルクスの殴打事件の例を見ればわかるとおり、フランス人は「強すぎる者」に対して異常ともいえる嫌悪感を示す。ちょっとうがった見方をすれば、ツール7勝のランス・アームストロング(アメリカ)を執拗なまでの捜査によりドーピング違反へと追い込み、すべての勝利を剥奪したのも、そのきっかけを作ったのはフランスの捜査当局だ。

 2013、2015、2016年に続いて、ツール・ド・フランスで3年連続4勝目を挙げたクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) ©A.S.O.
 2013、2015、2016年に続いて、ツール・ド・フランスで3年連続4勝目を挙げたクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) ©A.S.O.

豊富な資金力をもつスカイにも反感!?

フルームがブーイングを受ける理由は、そのアシスト陣の豪華さにもあるだろう。
ミケル・ランダ(スペイン)、ミケル・ニエベ(スペイン)、ミハウ・クヴィアトコウスキー(ポーランド)、セルジオ・エナオ(コロンビア)、ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)、ゲラント・トーマス(イギリス)、誰をとっても他チームへ移籍すればすぐにエースとなれるほど強い選手ばかりである。こんな豪華アシスト陣に助けられてレースを走っているのであるから、「勝って当たり前なのでは?」と思われてしまうのだ。

総合トップ3の表彰式。左より、総合2位のリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)、総合1位のクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)、総合3位のロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル) ©A.S.O.
総合トップ3の表彰式。左より、総合2位のリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)、総合1位のクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)、総合3位のロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル) ©A.S.O.

多くのフランス人のファンは、「金の力にものをいわせて、優秀なアシスト選手をたくさん集めれば、我らがロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)だって優勝するに決まっている」という。たしかに、そういった側面はあるだろう。以上のような感情が複雑に絡み合った結果、彼らはそのうっぷんを「ブーイング」という形で表現しているのだということができよう。


【2017ツール・ド・フランス 総合順位】
1 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)86h20’55″

2 リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)+54″

3 ロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)+2’20″

4 ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)+2’21″

5 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)+3’05″

6 ダニエル・マーティン(アイルランド、クイックステップフロアーズ)+4’42″

7 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)+6’14″

8 ルイス・メインティス(南アフリカ、UAEチームエミレーツ)+8’20″

9 アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)+8’49″

10 ワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)+9’25″

109 新城幸也(日本、バーレーン・メリダ)+3h18’16”
マイヨヴェール(ポイント賞)
マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)
マイヨブランアポワルージュ(山岳賞)
ワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)
マイヨブラン(新人賞)
サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)
チーム総合
チームスカイ
左より、マイヨブランアポワルージュ(山岳賞ジャージ)のワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)、マイヨブラン(新人賞ジャージ)のサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)、マイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)、マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)のマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) ©A.S.O.
左より、マイヨブランアポワルージュ(山岳賞ジャージ)のワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)、マイヨブラン(新人賞ジャージ)のサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)、マイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)、マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)のマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) ©A.S.O.
ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)らの成長により、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の独裁体制に陰りが見えてきている? ©A.S.O.
ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)らの成長により、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の独裁体制に陰りが見えてきている? ©A.S.O.
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WRITTEN BY仲沢 隆

仲沢 隆 自転車ジャーナリスト。早稲田大学大学院で、ヨーロッパの自転車文化史を研究。著書に『ロードバイク進化論』『超一流選手の愛用品』、訳書に『カンパニョーロ −自転車競技の歴史を“変速”した革新のパーツたち−』がある。

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