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「自転車で阿蘇を再生させる」弱ペダ聖地「蘇山郷」コルナゴ部長とラピュタの道

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2016年4月に発生した熊本地震。飛行機も電車もすべての交通機関が麻痺し、その冬の阿蘇の観光地はどこも閑古鳥。

そんな中「自転車ならできることがある」と立ち上がったサイクリストのひとりが、阿蘇・内牧温泉の宿「蘇山郷」に勤める、コルナゴ部長こと中尾公一さん。あの「ラピュタの道」の認知を広め、同時に守ってきた人でもあるのです。

「蘇山郷」といえば「劇場版 弱虫ペダル」にも登場する聖地。今回は、FRAME編集部のキコが、「蘇山郷」の聖地巡礼と、「ラピュタの道」や阿蘇の復興についてコルナゴ部長にお話をうかがっていきました。

「蘇山郷」は自転車乗りと「劇場版 弱虫ペダル」の聖地


「劇場版 弱虫ペダル」で総北高校が泊まった「蘇山郷」。かつては与謝野鉄幹・晶子も訪れた由緒ある温泉宿です。正面玄関にはサイクルラックが。自転車乗りにとって「歓迎」を意味するうれしい設備のひとつですよね。


▲「事前に弱虫ペダルのファンの方だと分かっていれば、下駄箱はこの案内を出すんですよ」とコルナゴ部長。このおもてなしはうれしい!


到着直後。まずは阿蘇のマップを広げておすすめのルートや地形を説明してくれます。自転車乗りは「走る」ことが1番の目的。さすが自転車乗りの心理を知り尽くしています。

コルナゴ部長 自転車の人にはこの立体の地図を使うんですよ。

キコ 立体だとどこが山で、どこから登るかイメージがつきやすいですね。

コルナゴ部長 弱虫ペダルの作者の渡辺航先生の出身地は長崎でシーズンになると、大分から阿蘇へ続く「やまなみハイウェイ」を自転車で帰省する姿が目撃されるんですよ。


▲入り口正面奥は、劇中で小野田くんと手嶋さんが話していた場所。宿泊客はここで抹茶と和菓子のお茶請けのサービスをいただける。

キコ 渡辺先生といえば、弱虫ペダルのファンの方はやはりたくさん来られるんでしょうか?

コルナゴ部長 映画の公開直後はとにかくすごかったですね。これまでに来られたファンの方は500人以上。今でも毎日1組はいらっしゃいます。「昨日BMCを買いました」という女性が、宅急便で自転車を宿まで送ってそのまま初ライドで「ラピュタの道」に登りに行く、なんてこともありましたね。

キコ えっ、初心者があの勾配のヒルクライムを…?登れたんでしょうか。


▲映画にも登場した、雲海とラピュタの道。(C)コルナゴ部長

コルナゴ部長 ほとんど押して登ったらしいですけど、それでも大感激して帰っていきましたよ。

キコ 小野田君のようにBMCに乗って、巻島先輩と再会したラピュタの道を登る。景色も素晴らしいし、最高の体験ですね。劇場版の「火の国やまなみレース」のコースも渡辺先生と決めたんですか?

コルナゴ部長 コースは制作会社の人と考えました。「ラピュタの道」も候補に上がっていたのですが狭くて危ない山道なので、熊本城からミルクロードを通過してやまなみハイウェイを通るあのコースになったんですよ。でも「ラピュタの道」を出さないのはもったいない、ということで巻島さんが登場するあのシーンが出来たわけです。

選手たちが泊まった部屋「蘇峰」


▲小上がりにマット4つ、畳の部屋に布団4つ、最大8名の宿泊が可能。この部屋はグループで来られるファンの利用が多い。

コルナゴ部長 選手達が泊まった部屋「蘇峰」です。ここも地震で相当な被害を受けました。もともとは畳の部屋が2つだったのを改装で片側を小上がりにして、床の間は以前のままに残したんですよ。


▲部屋割り表にも総北高校の部員の名前が。

コルナゴ部長 館内に洗濯機の設備はありませんが、自転車の人には特別に貸し出しています。


▲マネージャー寒咲幹が泊まった3階「若葉」の部屋。女性ファン1人での利用が一番多く、外輪山の眺めが美しくラピュタの遠景が見える。


▲大会1日目夜にミーティングに使われた部屋。

翡翠色の湯が美しい温泉の大浴場


阿蘇温泉郷のひとつでもある「内牧温泉」は、温泉郷の中でも最大規模。「蘇山郷」大浴場のお湯は透き通った翡翠色の天然温泉です。サイクリストの脚の疲れを癒すには最高の場所ですね。

コルナゴ部長 弱虫ペダルの女性ファンは、男湯の見学が1番喜んでくれますね。特に洗い場。

キコ 男湯は入れないですからね…。キャラクター達が使った「男湯」はぜひとも見たいと思うのがファン心。これは大歓喜してもおかしくないです。


▲大浴場横にあるファンのためのコーナー。ポスターはシドニー公開版。自転車関連の本もそろい、雨の日で走れなかったサイクリストの読書の場にもなる。

「ラピュタの道」崩落までの軌跡


▲熊本地震前のラピュタの道。(C)コルナゴ部長

キコ 「ラピュタの道」の知名度が上がったのは比較的最近だと聞きました。どのように広がっていったのでしょうか。

コルナゴ部長 「ラピュタの道」は地元では狩尾峠と呼ばれている場所(正式名称:市道狩尾幹線)です。私が知ったのは、2010年くらいです。ミルクロードを走っていて、良さそうな道だとひょいと走ってみたのが「ラピュタの道」だったんですよ。バイク乗りの人や昔からの自転車乗りは存在を知ってはいましたが、まだ一般のメディアやSNSで話題になるということはない時期でした。


▲熊本地震前のラピュタの道。(C)コルナゴ部長

コルナゴ部長 写真をブログに載せたら、それを見たバイク乗りの人が「ラピュタの道ですね」とコメントをくれました。「ラピュタの道か、いいね。じゃあこれはラピュタの道ね」と、ブログで書くことに決めました。前から誰かがそう呼んではいたんですけどね。それから徐々に広まりました。

観光地化によるマナー問題~熊本地震で完全に閉鎖


▲熊本地震で崩落した「ラピュタの道」。現在は完全に通行止めで復旧の目処はたっていない。 (C)コルナゴ部長

コルナゴ部長 そこから想像以上に人が来だしたので「ダウンヒルは危ないからヒルクライムだね」「農耕車両優先だから農耕車両がきたら避けるようにしないとだめだよね」と自転車仲間と話していたんです。

そうこうしているうちに熊本県の観光冊子の表紙になって一気に有名になってしまいました。自転車以外の一般の方もたくさんやってきて、レンタカーが脱輪したり、早朝のバイクのエンジン音で地元の人が寝られなかったりと、問題も起こりました。そうこうしているうちに地震がきて完全に通行止めになったんです。

キコ 人が増えると、どうしてもマナーが問題になりがちですね。観光とマナー、難しい問題です。



▲土砂崩れや落ちかけの橋、ひび割れた道など、地震の傷跡は想像以上に深い。復旧の難しさを目の当たりにする。

阿蘇を自転車で走れば草原再生に繋がる


▲一目山風力発電所に続く牧野道。立ち入り禁止だが、イベントでは許可をとって走る。(C)コルナゴ部長

キコ 「ラピュタの道」を一度は走ってみたいという人は多かったでしょう。

コルナゴ部長 ラピュタに代わるような道として阿蘇には多くの牧野道があります。そこは車はほとんど通らなくてすごく景色がいいところですよ。

牧野(※家畜を放牧する牧草地)は普段は通行止めになっています。家畜がいない12月から3月までの時期に牧野組合から借りて、ガイド付きで有料で走れる仕組みを作ろうと思っています。その参加費を草原再生に当てるんです。


▲噴火や水害、熊本地震復興の軌跡をつづった写真。

コルナゴ部長 草原維持は人手もお金もかかるから大変で、年々草原は小さくなっているんですよ。それを自転車で阿蘇の草原を走ることで「草原再生に参加できる」とすれば、お金払う意味が生まれるんです。

去年の阿蘇の冬はJRはない、助成金も給付金もない、雪は深いで、観光地はどこも閑古鳥。人がこなくて本当に最悪でした。「今度の冬はなんとかしないといけない」。そんな気持ちで自転車での取り組みを始めたんです。

お客さんが少ないなか「受け入れられるのはこういったものなんだ」と自転車を積極的に活用しているんです。


▲MTBのトリムカンパニーとMTBで大観峰から草原を下り、蘇山郷まで戻って温泉に入るというツアーも一緒にやっている。冬はMTBの楽しさにハマりセミファットバイクを買ったというコルナゴ部長。

「自転車のお客さんに来て欲しい」自転車で地元の人と繋がる

キコ 自転車乗りの人が熊本・阿蘇で来て行ってほしいスポットはどこでしょうか?

自転車お守りがある「浮島神社」


コルナゴ部長 自転車お守りがある「浮島神社」は参拝してほしいですね。そこの宮司さんもちゃんとした自転車乗りの人です。

この地域は一番ひどい地震があった場所です。浮島神社も相当被害にあったのですが、神社は地震保険には入れないので寄付だけでなんとか復興しました。ぜひ行って参拝してください。


▲巻島先輩の「安全第一で走るショ!」の色紙も。


▲「GIRO D’ITALIA 2017」で現地でお世話になった人にお守りを配ったというコルナゴ部長。悪魔おじさんも彼流の授かり方で大喜び。

浮島神社
※県外の方であれば郵送でもお守りを授かれます。初穂料700円。
地図:

おすすめは早朝ライド~温泉~朝ごはん


▲早朝の阿蘇山からのぞむ景色。

キコ ロードバイクで走るとしたらどこがおすすめですか?

コルナゴ部長 東京の人におすすめするなら、外輪山の「大観峰」か「阿蘇山」ですね。早朝に起きて「大観峰」や「阿蘇山」草千里ヶ浜の米塚から雲海を見る。宿に帰ってきたら、朝ごはんもおいしいし、朝風呂も気持ちいいでしょ?部屋でゆっくりして、荷物をあずけてまた走りに行く。


▲澄んだ早朝の空気の中、外輪山の尾根の上を走る。

コルナゴ部長 せっかくなら連泊がいいですね。午後3時くらいから夕焼けを見にまた走りにいって、夕日を背にしながら街の明かりを目指して宿に戻ってくるんです。私たちが「おかえりなさい」とお出迎えすると「あぁ、家に帰ってきたなぁ」という気持ちになるんです。

大観峰の記事はこちら


▲朝ごはんは阿蘇高原コシヒカリのお米に、湯豆腐、作りたての卵焼き、お漬物など。採れたての地元野菜食べ放題もつく。

旅人と地元の人の交流がエネルギーを生む


コルナゴ部長 自転車で走っていて農家の人がいたら話かけてみてください。「おばちゃんの大根どこで食べれますか?」「道の駅で売っとったい」なんて会話がつながると楽しくなるんです。農家のおばあちゃんおじいちゃんと話して地元の人からエネルギーをもらってください。

地元でお祭りなんかしていたら、おっきなおはぎやお団子をふるまってくれることもあるかもしれません。おじいちゃん、おばあちゃんも若い人と話すと元気になれます。みなさんに来てもらって、弱っている阿蘇を旅して応援してもらえたらと思います。

コルナゴ部長の愛車

キコ 最後に。私、サイクリストの取材の際はいつも自転車を見せてもらうことにしているんです。コルナゴ部長の自転車見せてもらってもいいですか?


▲2007年のコルナゴCLX デュラエース7800 「完成度が高くて今の電動アルテに負けないよ」と笑顔のコルナゴ部長。




▲ホイールはマヴィック。1本だけ赤いスポークが車体の色とマッチしていてかっこいい。


▲倉庫から秘密のコルナゴが登場。「どうしたんですかこれ!」と聞いても「秘密!」と嬉しそうに笑う。

自転車旅で現地のサイクリストと繋がる喜び


取材が終わった夜、1階の日本酒バーで旅館のスタッフと「今回は野焼きの黒い草原を走ったけど、次は緑の草原を走りたいですね。コルナゴ部長と」なんて、語り合いながら飲み明かしました。

コルナゴ部長は「明日、自転車の仕事があるので」と帰宅。草原再生への取り組みの下見に行くのでしょう。

「劇場版 弱虫ペダル」のキャッチコピーは「ペダルを廻せ、魂をつなげ」。旅先で自転車に乗ってペダルを回し、見知らぬ土地でサイクリストに出会えば、何かが繋がる気がするのは私だけではないはず。現にこの数日で、コルナゴ部長、Raphaアンバサダー、モンベルの自転車乗り、自転車ツーリングの学生、ランドナー乗りの記者などいろんなサイクリストと出会い、力をもらいました。


蘇山郷を起点に、輪を描くように山を自転車で登り、草原を走る。名物のあか牛や高菜のご飯を食べて、温泉に入る。自転車乗りが阿蘇ですべきことは、それでいいんだ…そう思いながら次の日の早朝は朝霧の中ロードバイクで阿蘇山に向かったのでした。

蘇山郷
公式HPはこちら

コルナゴ部長の阿蘇天空の旅

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