ロードバイクに使えるケミカルの基礎知識(後編)~ひとりで100㎞走るためのメンテナンス講座#09
初心者ライダーがひとりで100㎞ライドに出かけて問題なく帰ってくるためのメンテナンス方法を紹介する連載企画。続けて読んでもらえれば、ライド前に必要な準備はもちろん、ライド中のトラブルに対応/回避するために必要なメンテナンスの知識が身につくと思います。無事に100㎞ライドを終えたころには脱・初心者です!
ケミカルを知る者はバイクメンテを制す その2
前回に続いてケミカル類の基礎知識を紹介します。種類が多いケミカル類の使い分けはメンテナンスには欠かせない知識なので、ぜひお付き合いください。
チェーン以外の潤滑に使うケミカル
チェーン以外の日常メンテの潤滑は、ワコーズのメンテルーブ1本でほぼ賄えます。主にディレイラーに使いますが、多目的とうたうだけあって、ワイヤーやチェーンにも使えますよ。粘度が高い割に浸透性も高いので、やや多めに吹いて、ウェスで拭き取ります。これがなくてもディレイラーなどのパーツにはチェーンオイルで代用できますが、浸透性の高さや水置換性があり、また長時間とどまってくれるので使い勝手が良いんです。
ディレイラーは洗車後、可動部に注油しましょう。リアディレイラーは、まず①トップの状態にして指でロー側(奥)に押して力を抜く動作を繰り返します。こうすると、本体は4つのパーツが4本のピンでリンクされていることが分かります。
①リアディレイラー(RD-5800)側面。色分けした4つのパーツがピンで繋がっている。
矢印でひとつ例を示しているように、パーツとパーツの隙間からピンに染みこませるように注油します。左右8箇所の注油ポイントがあります。次に、②ディレイラーをつかんで手首を時計回り方向に水平にひねって回転させます。
ディレイラー 本体の取り付け部が動く場合はここも注油ポイントです。最後に、③2つのプーリー(歯車)を固定してるプレートの下端をチェーンを緩める方向に押します。
プレートとディレイラー 本体のリンク部が回転するはずです。ここにも注油しておきましょう。こうして動きを確認することで、チェーンをスプロケットの歯の上に導きつつ、チェーンのテンションを保つディレイラー の構造がなんとなく理解できるかと思います。
フロントディレイラーも動かして可動部を見極めて注油しましょう。
注油したらディレイラーを動かして油分を行き渡らせ、表面に残っているオイルは汚れを呼ぶのでしっかり拭き取ります。
潤滑剤には粘度の低いオイルの他に、増ちょう剤を加えて粘度を高めたグリスがあります。グリスはベアリングの調整やBB(ボトムブラケット)とクランクの組み付けなど頻度の低い少々高度なメンテナンスでしか使いません。そういったメンテナンスについては、ビギナーの方はショップに依頼してください。
ひとつだけ持っておくなら、定番のシマノ プレミアムグリス が良いでしょう。プレミアムグリスは防水や金属同士の潤滑に使う自転車整備用の汎用グリスです。
ケミカルマニアからは「たいした品質ではないのに高い」と言われることもあります。たしかに「プレミアム」な要素を感じるのは難しいのですが、シマノがすべて分かったうえで開発・販売しているのですから、まあ間違いはないです。この他に、ハブやBBに封入するとより軽い感覚が得られるグリスもありますので、メンテナンスの技術が上がって必要になったらまた調べてみてください。まずたいていのことは、シマノのプレミアムグリスで事足ります。
ただし、ケーブルに使われているライナーの樹脂には使えないので、シフトケーブル(一部ブレーキケーブルも)の潤滑にはシマノ ケーブルグリスを使います。一度買ってしまえば長持ちしますので、これも持っておいて良いかもしれません。ケーブルの潤滑方法は今後、変速調整の項目で詳しく紹介する予定です。あと、走行中にペダリングを止めるとカラカラ音がするフリーの部分にも粘度が低めの専用品を封入するよう指示されているホイールもあります。このへんもショップに依頼案件なので、必要度は低いグリスです。
その他特殊用途のケミカル類
ここまで紹介した、チェーンオイル、パーツ用のオイル(メンテルーブなど)、自転車用汎用グリス(シマノプレミアムグリスなど)、チェーン用の洗浄剤、その他バイク全体の洗浄剤。この5つがあれば日常メンテナンスでは事足ります。その他あると便利なのが、ネジ止め剤です。LOCTITE ねじゆるみ止め用嫌気性接着剤 243は緩みやすいボトルケージやクリートのネジなどに使います。金属ネジ用の中強度タイプで、走行中の振動などでネジが緩みにくくなりますが、工具を使えば簡単に緩められます。カーボン製のハンドルやシートポストを使っている人は、カーボンアッセンブルペーストが必需品です。Tacx CARBON ASSEMBLY COMPOUNDなどの製品です。滑り止めのコンパウンドが入ったグリスで、締め付けトルクを上げられない箇所で部品を固定するときに使います。その他、油圧ディスクブレーキ用のオイルやチューブレスタイヤ用のシーラント剤なども使用機材によっては必要になってきます。
まとめ
以上、自転車のメンテナンスに使うケミカルの紹介でした。ショップで定期的な点検やオーバーホールを行い、パーツ交換などもショップに任せる人が最小限で済ませるには――
①チェーンクリーナーかパーツディグリーザー
②チェーンオイル
ディレイラー などへの注油もテェーンオイルで済ませれば、この2本でなんとかなります。メンテルーブなどの汎用潤滑剤は持っておいてもよいですけどね。
室内メンテ派におすすめのセットは上記にプラスして
③泡タイプのクリーナ
④コーティング剤(ワコーズ バリアスコートなど)
⑤汎用潤滑剤(ワコーズ メンテルーブなど)
⑥ネジ止め剤(ロックタイト243など)
⑦汎用グリス(シマノ プレミアムグリスなど)
⑧シマノケーブルグリス
の8種類。屋外メンテ派は中性洗剤が使えるので泡タイプのクリーナを省いた7種類です。けっこう多いですね。でもチェーンオイルとクリーナー以外はそれほど使いませんからバイク1、2台の運用なら数年持ちます。必要に応じて徐々に揃えていきましょう。
●バックナンバー
第1回/空気の入れ方
第2回/簡単なチェーン掃除法
第3回/水を使わずチェーンを洗う(準備編)
第4回/水を使わずチェーンを洗う(実践編)
第5回/出先でのパンク修理に必要な七つのギア
第6回/確実にサッと行う出先でのパンク修理法
第7回/ねじ、ナメたことない? 正しい工具の選び方
第8回/ロードバイクに使えるケミカルの基礎知識(前編)