リム打ちパンクは”抜重”で回避する~自転車の処方箋#16
「自転車の処方箋」は、サイクリストの悩みに元プロロードレーサーが、スパっと回答する連載企画です。今回は、神奈川県のCOMAさんから「ちょっとの段差でタイヤがパンクしてしまった」という相談をいただきました。そこで今回は、段差を回避するテクニックを解説します。それでは管さん、今回もよろしくお願いします!
段差を越えるには抜重テクニックが必須
ロードバイクで街を走っていると、ちょっとした路面の段差に必ず遭遇します。特にトゲを踏んだわけでもないのに、前輪がプシューッと一気に空気が抜けてしまった! これが通称「リム打ちパンク」。ロードバイクに乗りだすと一度は経験するであろう特殊なパンクです。
ハンドルに荷重がかからないように気をつけていても、小さな段差を乗り上げた瞬間にタイヤが勢い良く段差の角にヒットして潰れ、リムと大きく膨れたタイヤの間にチューブを噛み込んで一気にバースト。走行不能となりチューブをタイヤから出してみると、ホッチキスで挟んだようなような2つの穴がポッコリと空いている。これは補修パッチではカバーできません。このリスクを回避するため、ロードレーサーには必ず予備チューブを携帯している訳です。
ではどうすればこういった段差をスムーズに通過できるのできるのでしょう…。今回紹介する抜重(ばつじゅう)こそ、リム打ち知らずのテクニックなのです。
抜重テクニックとは、前輪・後輪を片方ずつ、もしくは両輪を同時に地面から浮かせて着地している重力を抜くワザです。完全に車輪を宙に浮かせなくても、体重で潰れているタイヤから加重を抜けば、段差を乗り越えるときにタイヤにかかる負担を排除することができます。
まずはエアーフォームで試そう
自転車から降りて両足で立ってみましょう。この時にまるでクランクを水平に構えているかのように足を前後に構え、上体をやや前傾にしてハンドルを持った状態をエアーフォームで再現します。
抜重は一瞬のテクニックです。ジャンプで重力に逆らい、地面から抜重することができます。この姿勢で高く飛びたいのであれば、大きくしゃがまなければいけません。しかし、ロードバイク上ではサドルに腰が付き、足がやや伸びているのが基本姿勢なので不可能です。足首やヒザの伸展を使って小さな動きでジャンプしてみるのが、現実的でしょう。真上に飛べば両輪、斜め後ろに飛べば前輪、斜め前に飛べば後輪を浮かせるイメージに繋がります。
次に、ハンドルを持つ手元をイメージしましょう。斜め後ろに飛ぶ身体に合わせて、ハンドルをジャンプについてこさせるようにヒジを少し固めに構え、ブラケットを握った手首を手前に返すと“フロントアップの抜重フォーム”の完成です。逆に手首を奥へ送ると同時に斜め前に飛べば“リアアップの抜重フォーム”になります。両輪を浮かすのは少しハードルが高く感じますが、手首とヒジを固めて真上に飛べばホッピングと呼ばれる“ジャンプの抜重”が完成します。
フロントアップとリアアップ
次に、バイクに跨がり実践してみよう。バイク上で地面と水平にクランクを構えるスタンスのフォームが基本姿勢です。ハンドルはブラケットで構えて練習すると、実走時で汎用性が高いでしょう。まずはフラットな路面でフロントアップの練習からはじめます。仮想の段差を前に一瞬ヒザに溜めを作り、両クランクを軸にやや後方に跳ねることで車体から体重が抜重し、両ペダルから身体の荷重が離れたと同時に手首を手前に返す動きを加えると、一瞬前輪が地面から抜けた感覚が得られます。走行中の小さな段差はこれで通過するのが基本です。縁石など高い段差をあえて越えようとする時はさらにヒジをバネにして、両クランクから抜重するタイミングでハンドルを勢い良く引きつける動作を連動させます。タイミングが合うと縁石など20cm程度の段差はヒットせずに乗り上げることができます。
タイミングを掴めたら、前後輪の間に収まる程度の薄めの板などを地面に置いて、タイミングを合わせてフロントアップをしてみましょう。
フロントアップでつまずかずに板を越えると、次に越えないといかなくなるのが後輪。リアアップの練習は、まずはスタンスのフォームをとり、手首を奥へ送ると同時に両クランクを軸にやや斜め前方に跳ねることで抜重すると、リアの荷重が抜けてリアアップします。フロントアップ、リアアップを順番良く組み合わせる段差を乗り越えれば完成形になります。フロントアップの後、前輪が着地した流れで後輪をリアアップすることで、車輪を板にヒットせずに乗り越えられるのです。
この練習を繰り返すと、小さな段差は小さなモーションで回避できるようになります。
次回はフロントアップ、リアアップを発展させた大きな段差越えとホッピングについて解説します。お楽しみに!
●バックナンバー「自転車の処方箋」
第1回:上手い下りの走り方
第2回:楽しく上るための回転数と心拍数の関係
第3回:予習が上りを楽にする
第4回:緩い上りは“もも裏”で効率的に上る
第5回:平均勾配7.8%の激坂の走り方
第6回:斜度に合わせてシッティングとダンシングを使い分ける
第7回:バイバイ立ちゴケ! 走行スキルを高める“スタンス”とは?
第8回:「自転車が下手だな」と思うなら…各段にうまくなる“チョコチョコ乗り”を
第9回:段ボールでマスターする平地のダンシング前編
第10回:“華麗なダンシング”のための3つのポイント
第11回:スマートに止まるブレーキングの極意
第12回:安全に止まるためのバイクコントロール
第13回:3つのスキルでコーナリングの達人になろう(基本編)
第14回:3つのスキルでコーナリングの達人になろう(外足荷重編)
第15回:3つのスキルでコーナリングの達人になろう(リーンイン・リーンアウト編)
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WRITTEN BY管洋介
1980年生 A型 日本スポーツ協会公認コーチ 競技歴22年のベテラン。国内外で50ステージレース以上経験し、スペインで5シーズン BRICO IBERIA 、VIVEROS [現 CONTROL PACK]と契約、国内ではアクアタマを設立、インタープロ、マトリックス、群馬グリフィンを経て、国内の有望な若手選手とファーストエイドなど安全啓蒙を指南できるメンバーを集めたAVENTURA CYCLINGを2017年に設立、走りながら監督を務める。プロカメラマンでもあり、自転車雑誌の製作に長く関わっている。現在はプロライディングアドバイザーとして初心者向けのライディングレッスンなどを多く手がける。