「子の権現(ねのごんげん)」とは、埼玉県飯能市の山間部・名栗(なぐり)に位置するヒルクライムコースのこと。ヒルクライマーでにぎわう飯能でも、子の権現は別格扱い。それどころか、風張林道や和田峠と並び、東京近郊ではもっとも厳しい峠のひとつに数えられています。
でも、週末の子の権現には必ずと言っていいほど、自転車乗りの姿があるんです。どんな魅力があるんでしょうか?
コースプロファイルが独特
自転車乗りが言う子の権現は、上掲の写真の場所から始まる約4kmのヒルクライムコース。平均斜度は約6.9%とややきつめ(ルートラボ上で算出)。
でも、平均斜度が10%を超えている和田峠や風張林道ほどではありません。じゃあこの2つの峠よりマシなの?というとそんなことはもちろんありません。子の権現の特徴は、平均斜度には現ないんです。その行ってみないとわかりにくい激坂っぷりをご紹介しようというのがこの記事の趣旨なわけです。
子の権現は、大きく2つに分かれます。最後に現れる「本番区間」と「それ以外」です。まず、本番区間以外を紹介しておきます。
序盤は山村風景の中、緩斜面が続きます。2kmほど行ったあたりで斜度が増し、8%ほどになります。これでも十分きついのですが、そこからさらに進むと、10%に到達します。この段階で残り1.2km。ここからはずっと10%オーバー。しかし、それすらも前座に過ぎないのが、子の権現が子の権現たる所以です。
斜度28%に達する300mこそ「子の権現」
本番区間はわずか300m。しかし、このラスト300mが自転車乗りの心を折り、脚を着かせる、超強烈な激坂なんです。
こちらがその300mの始まるクランクです。写真左手から右手にかけて登っていくのですが、この時点で斜度が15%ほどあります。これもまぁきついですが、これは地獄の入り口に過ぎません。
写真中央奥をよーく見てください。手前からさらに斜度はアップしいますよね。すぐに斜度は20%に達します。
そして、斜度はそこからさらにきつくなります。上の写真からさらに登った場所を上から撮った、次の写真をご覧ください。
カーブにかけて、異常な傾斜になっているのがわかるんじゃないでしょうか。そう、ここが子の権現を子の権現たらしめている超激坂区間。斜度は実に28%!
下からも見てみましょう。これが登っている最中に見える景色です。自転車で無理矢理壁を登るような感じ。壁のようなクランクのインパクトは強烈で、それだけで「あ、無理」となってもなんらおかしくありません。
横からこのカーブを見るとこんな感じ。自転車を自立させるのは無理だったので、斜面に立てかけています。毎度脚がもげそうになり、心臓がバクバク鳴り出します。心拍計を着けていれば、一瞬で最高心拍数に到達するのが拝めます。
子の権現に挑む際の注意点
ここを登り切るには、激坂慣れが必要でしょう。壁のような激坂に臆しないメンタルがまず必要ですし、激坂用のライディングテクニックも習得しておきたいものです。
ここまでの激坂だと、荷重を臨機応変に調整しないと転んでしまうんです。前輪が浮くなら、ハンドルに体重を預けるようにし、後輪が滑るなら、もっとサドルに体重を乗せなければなりません。ここまでの激坂では、平地とは重心を変える必要があるんですね。
もし斜度15%以上の坂を足つきなしで登ったことがないなら、短い激坂を登って感覚をつかんでおいたほうがいいです。多摩の百草園(もぐさえん)などで練習してみましょう。
また、ビンディングを使い始めたばかりの人も、チャレンジされる際はよく注意してください。とにかく転びやすいので、最初はビンディングを外したほうがいいかも。子の権現は道が狭いうえに、車が通ることがあります。激坂区間で車と鉢合わせると転倒の可能性は高くなるでしょう。
坂にある程度慣れたうえで、よく注意してトライしてください。
さらに100mほど登ると、ようやくゴールです。息は切れ、脚にはもう力が入らないようになっているでしょう。余力を残して子の権現を登りきれるなら、相当な脚力の持ち主!
観光スポットとしての一面も
子の権現の激坂っぷり、伝わったでしょうか? でも、怖がらせたいわけじゃありません。子の権現をライドに組み込めば、ふだんとはちがう、刺激的でチャレンジングなコースができあがります。それに、子の権現とその周辺には、ご褒美もしっかりあります。
ゴールの先には子の権現 天龍寺というお寺があり、静謐な雰囲気がすばらしいんです。売店や自販機、ベンチがあるので、まずは心拍数が下がるまで休憩しましょう。
子の権現は足腰守護の神仏を祀っており、それを象徴するのがこの大わらじ。大人の背丈くらいあって、実際に見るとインパクト大です。お守りも販売されていますよ。足を着かずに登り切れたなら、自転車乗りとして大きな壁を越えた、いい記念になるはず。
展望台からの景色もなかなか、空気が澄んでいるとスカイツリーが見えるそうです。
休日には、グループでトレーニングにきているヒルクライマーも多いです。ちなみに、飯能が舞台の登山コミック『ヤマノススメ』にも登場していて、自転車以外でも子の権現は有名。登山客と言葉を交わす機会もあるかも。
実は駅近
子の権現は、飯能駅からスタートして登り切って20kmほど。飯能駅までは池袋駅から西武新宿線で1時間ほどなので、かなり気軽に行けますよ。
子の権現は、短距離で負荷が高いコースなので、「時間がないときに、とりあえず子の権現で満足する」という使い方もできます(筆者はこれが理由でちょくちょく登ってます)。
グルメもあり
グルメスポットもちゃんとあります。有名なのは、以下2店舗。子の権現からだと、峠をさらにひとつ越えないといけないのがたまに傷ですけど。まずは「カフェキキ」。
自転車乗り向けメニューの「坂登り丼」といったがっつり系から、スイーツやコーヒーまで幅広いメニューが楽しめる、自転車乗りのためのお店。Twitterで割引情報や走行会の参加者募集、飯能近郊の峠情報などを公開されています。サイクルラックあり。
そして「ターニップ」。
世紀末ロードバイクバトルマンガ『はやめブラストギア』にも登場したお店で、焼きカレーが名物。14:00に閉まってしまうので、行かれる際はお早めに。サイクルラックあり。
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まとめると
今回は、激坂としての子の権現を紹介しましたが、走行中に味わえる静けさや人気のなさは平日に疲れた神経を休めるには最適じゃないかと思っています。
筆者がたびたび子の権現を訪れるようになったのは、都会を離れた山奥の雰囲気を静かに味わえるから。規格外の激坂ポイントがいい話のタネになるという面もありますが、歴史と風格を兼ね備えたスポットだから、という面も大きいです。
サイクルラックが多く、サイクリストも多い飯能・名栗地区は子の権現以外にもたくさんの峠があります。気分転換にぜひ一度訪れてみてください。