トレック・マドンSLRが第7世代にフルモデルチェンジ! 全世界が注目する「穴」の正体は…!?
トレックのエアロロードの最高峰・マドンSLRが2023年モデルで第7世代にフルモデルチェンジを果たした。
すでにクリテリウム・デュ・ドーフィネで実戦投入されていた “謎のニューマシン” で確認されていたとおり、シートチューブに開口部を持つ独特なデザインのフレームを採用。空力性能と快適性、軽さを高い次元で兼ね備えることに成功したという。新開発の専用エアロバー、専用シートポストを組み合わせ、先代モデルと比べて300gもの軽量化を達成しているのもトピックだ。
マドン史上最も空力性能に優れ、最も軽い第7世代マドンの概要を紹介しよう。
目次
さらに速く、軽くをカタチにした第7世代マドンSLR
第7世代のマドンSLRの開発にあたり、トレック・セガフレードの選手たちからの要望は「さらに速く、軽く」というものだった。速さの追求のために、2022年5月にアワーレコード世界記録を樹立した最速のTTバイク・スピードコンセプトの開発で使った風洞実験を行い、空力性能の向上を目指した。
そこで生み出されたのが、シートチューブにIsoFlowという開口部を設けて新しいチューブ形状を採用したフレームと、新開発のマドン専用ステム一体型ハンドルバーだった。これらの恩恵で、時速45kmで走行した場合、先代マドンと比較して19Wの空気抵抗を削減し、1時間あたり60秒のタイムを短縮できるという。
さらに軽量化の追求のため、フレーム素材にはトレックで最も軽くて強度の高いOCLV800カーボンを採用。IsoFlowの採用などもあり、フレームで約150gの軽量化を達成している。また、新型のステム一体型ハンドルバーも従来のものと比べて約150gの軽量化を実現しており、バイク全体で300gの軽量化を達成している。
第7世代マドンの象徴・IsoFlowは空力、軽さ、快適性を新次元へ
新型マドンSLRは、2021年に改訂されたUCIの車両規定に基づき、先代と同様にカムテールをベースとしながらもまったく新しいエアロチューブ形状を採用。最も目を引くのがこのモデルのアイコンとも言えるシートチューブの開口部IsoFlowだろう。これは「先代までのマドンシリーズに搭載されていたIsoSpeedをよりシンプルにし、フレームに統合したもの」とトレックは説明する。
シートチューブを後ろ側から見ると、トップチューブ、シートステーの接合部付近にひし形の空洞があり、BBから真上に伸びるシートチューブは途中で二股に分かれてシートステーと接合するような形になっている。一方、フレームを真横から見ると、シートチューブの一部が「7」の形に切り欠きになっている。
シートステーはトップチューブの後端より少し前方に接合される形になっており、トップチューブ後端はシートステー後方に飛び出している。トップチューブ後端には、シートチューブが再び現れ、そこに専用のシートポストを差し込む形だ。
この構造を採用した意味は、先代マドンの快適性をそのままに、空力性能、軽さを向上させることにある。
空力性能の面では、ヘッドチューブから後方に流れてきた空気をIsoFlowがスムーズに後方に流すことで先代モデル以上に優れた空力性能を発揮。また、シートチューブが横から見たときに切り欠きになっていることで、シートポストからシートチューブ上端にかけてのセクションがよりしなりやすくなっており、路面からの衝撃吸収性能を高めて快適なライドフィールをもたらす。
さらに、IsoFlowはこれまでのIsoSpeedと比べて機構としてもシンプルで、軽量化にもつながっている。IsoSpeedはフレームにピボットを内蔵し、きき具合を調整することもできたが、IsoFlowはユーザーが個別に調整することはできない代わりに、各フレームサイズごとにチューニング。空力性能、重量、快適性のバランスを最適化し、どのサイズでも同じ乗り味を実現している。
シートチューブが途中で断絶する構造上、サドル高の調整が十分にできるのかと不安に感じるかもしれないが、その点も問題はない。シートポストは長さが異なるトールとショートの2種類用意。このシートポストとフレームのシートチューブに設けられた高さの異なる2箇所のクランプの組み合わせで大まかなサドル高さを決められるだけでなく、シートポスト側にはめ込むシートポストウエッジアッセンブリーというパーツの天地を入れ替えたり、通常のシートポストのように差し込み量を変化させることで、サドル高を細かく調整できるようになっている。
空力性能向上、人間工学に基づいたデザイン。新開発のステム一体型のエアロハンドル
新しく開発されたステム一体型のエアロハンドルを搭載しているのも第7世代マドンのトピックだ。
このハンドルは、第7世代マドン専用。ドロップ部を基準にサイズが決められ、ブラケット部の左右幅はドロップ部より3cm短くなったフレア形状を採用しているのが特徴。つまり、42cm幅のハンドルの場合、ドロップ部分の幅が42cm(芯―芯、以下同)で、ブラケット部の幅は39cmとなるため、ブラケットフードを持って走る場合はよりコンパクトなフォームで走れ、空気抵抗削減に貢献する。さらにドロップ部は通常の幅なので、バイクコントロールがしやすく、スプリント時などドロップ部を持って走る際にも力が入りやすくなっている。空力性能を追求しながらも人間工学に基づいた使いやすいエアロハンドルに仕上がっている。
新型ハンドルの空力性能の高さをもたらすものとして、その構造も挙げられる。ステム・ハンドル部分に継ぎ目がなく、スムーズな形状となっており、空気抵抗を削減できるからだ。また、この構造は部品点数を減らすことにも貢献しており、軽量化にもつながっている。実際に先代までのハンドルと比較して、新型ハンドルは約150gの軽量化を達成している。
サイズはハンドル幅とステム長が異なる複数のサイズを展開。リーチは80mmとこれまでのボントレガーのハンドルよりやや長め、ドロップは124mmと同程度だ。トレックによると、ハンドルのサイズ選びの際は今まで使っていたサイズのハンドルと同じサイズ表記のハンドルを選ぶとよいとのこと。42cm幅のハンドルを使っていたライダーは、42cm幅の新型ハンドルを使うことで、体にフィットしつつ、高い空力性能を体感できるはずだ。
なお、DHバーには非対応なので、トライアスロンなどでDHバーを装着する場合は通常のステムとノーマルハンドルに交換する必要がある。
世界最速のTTバイク・スピードコンセプトのノウハウを生かした新しいエアロフレーム
新型マドンの開発にあたり、トレックは2022年5月にエレン・ファン・ダイクがアワーレコード世界記録を樹立した最速のTTバイク・スピードコンセプトの開発時と同様に風洞実験を行い、空力性能の向上を目指した。実際の走行時の状況を再現するため、ライダーが乗車し、ボトルを2本取り付けた状態で実験を行ったのもスピードコンセプト開発時と同様だ。
フレームの形状は、2021年に改訂されたUCIの車両規定に沿ってアップデートされている。各チューブには従来と同じカムテール形状を採用しながらも新しい形状に変更し、空力性能を向上させたという。
さらに新UCI規定ではロードバイクとTTバイクの車両規定が統合され、ロードバイクにTTバイクで使われるデザインを落とし込むことも可能になったが、新型マドンにもスピードコンセプトのデザインを継承したと思われる部分がある。BB付近の造形だ。シートチューブ側のボトルケージにボトルを付けた際にボトルの底部がフレームすれすれに来るようになっていて、BB周辺の気流の乱れを最小限にとどめ、空力性能向上を目指している。
新開発のフレームとエアロハンドルによって、第7世代のマドンはあらゆる面で先代を凌駕した。そのことは風洞実験のデータが物語っている。
先代マドンとノーマルハンドルを搭載した第7世代マドン、新型ハンドルを搭載した第7世代マドンの3台について、走行中にさまざまな方向からの風を受けることを想定してヨー角(進行方向と実際の風上の方向との間に生じる角度。真正面からの向かい風は0度で、真横からの風が90度)を変えながら空気抵抗を計測。第7世代マドンは先代マドンよりあらゆる角度からの風に対して低い空気抵抗を示し、空力性能が高いことを証明。さらに新型ハンドルを搭載した第7世代マドンは、あらゆる角度からの風に対して3台中ほぼすべての角度で最も低い空気抵抗を示し、最高の空力性能を発揮していることがわかる。
新型マドンは、時速45kmで走行した場合、先代マドンと比較して19Wの空気抵抗を削減し、1時間あたり60秒のタイムを短縮できる。
フレームとハンドルで300gの軽量化。ディスクブレーキ仕様のマドンとして史上最軽量
空力性能や快適性だけでなく、軽量化も追求されている。それを可能にしたのは、トレックのカーボンフレームの最高峰OCLV800カーボンだ。
新型マドンSLRには、OCLV800カーボンが使われている。OCLV700と比べて30%高強度なこの素材を使うことで、フレームの成形に必要なカーボンの使用量を減らすことに成功。またIsoSpeedに代わるIsoFlowの採用もあって、フレーム単体で約150gの軽量化を達成している。
また、新型のステム一体型ハンドルバーも、構成部品を減らすなどして従来のものと比べて約150gの軽量化を実現している。
これらによってバイク全体で300gの軽量化を達成。ディスクブレーキ仕様のマドンとしては史上最軽量のバイクになった。
ちなみにトレック本社によると、完成車重量はマドンSLR 9 eTAP仕様で7.36kg(サイズ56)。多くの日本人が選ぶことになるであろう54サイズや52サイズだともう少し軽くなりそうだ。
コンポーネント違いの完成車4種類が発売、将来的にプロジェクトワンにも対応
ラインナップはコンポーネントの異なる4種類の完成車が用意される。将来的にはプロジェクトワンにも対応する予定だが、開始時期は未定だ。
- Madone SLR 9 eTap:175万6700円
- Madone SLR 9:166万8700円
- Madone SLR 7:130万5700円
- Madone SLR 6:115万5000円
※価格はいずれも税込
LINK: 公式HP