サイクルスポーツジャーナリストで、さらに国内トップクラスの強豪ヒルクライマーでもある “ハシケン先生”が、自転車がさらに楽しくなるように、乗り方のテクニックを紹介する連載企画です。今回は自転車のイベントの前に欠かせない、ウォーミングアップについて解説します。
身体を温めて走れる状態へ
ウォーミングアップの目的は、第1に寝ていた身体を走れる状態へと呼び覚ますことです。身体を温めることで血管が拡張して酸素の供給がスムーズになります。アップなしで急激に運動強度を上げると、心臓に大きな負担を与えてしまうリスクがあるためです。
第2に、体温の上昇により筋肉の柔軟性が高まり、関節可動域を広げてスムーズな動きを可能にします。他にも、「これからレースだ。頑張ろう!」というようなメンタルの準備にも、ウォーミングアップは重要なのです。
普段走る場合もいきなりペースを上げないで、少しずつペースを上げて身体を慣らしていくと、いつもよりも調子良く走れるようになります。
強度が高いヒルクライムにアップは必須
特にヒルクライムレースでは、スタート前のウォーミングアップは欠かせません。なぜならば、ヒルクライムはレース中の強度が高いからです。最大心拍数の90%ほどで走り続けることもしばしばです。そして、一般的にヒルクライムのレース時間は短く、1時間もかからず終わってしまうレースもあります。そのため、スタートの時点でエンジンである、自分の身体を温めておくことで、スタート直後から最大のパフォーマンスを発揮できる状態にしておくことが重要なのです。
ハシケンが実践する30分メニュー
それでは、ヒルクライムレース前に私がどのようなウォーミングアップをしているのか紹介したいと思います。ウォーミングアップはスタートの 1時間前を目安に開始します。そして、アップには最低30分ほど時間をかけ、スタートの30分前に完了します。例えば、スタートが7時のレースなら、6時からウォーミングアップを開始して6時30分には終えていることになります。
次に、ウォーミングアップメニューのポイントは次の4つです。
- 焦らずじっくりと段階的に負荷をあげていく
- レースペース強度に一度は入れておく
- 筋肉を疲労させず心拍数だけあげるように心がける
- 心拍数を落ち着かせてから終える
以上をきちんと遂行できれば、レースの準備は万全です。
段階的に負荷をあげていくときのコツは、軽いギヤから回していき、1分ごとにギヤを高めていくことです。自然にレース強度まで上がったら、1分ほど負荷をかけましょう。ウォーミングアップではトルクをかけすぎると筋肉が疲労してしまうため、ケイデンスを高くキープし心肺機能を効果的に刺激することが大切です。レース強度を身体に覚えさせ、温まったらウォーミングアップは完了です。しっかりと心拍数を落ち着かせてからバイクを降りましょう。
5分 軽めのギヤで身体を目覚めさせる(軽めの一定負荷)
10分 1分ごとにギヤを高めていき、段階的に負荷を上げていく
(アウターとインナーギヤを上手に使い分けて負荷を調整)
1分 レース強度で刺激を入れる
3分 軽めのギヤで一旦心拍数を落ち着かせる
1分 レース強度で刺激を入れる
10分 クールダウン(ペダリングを確認しながら心拍数を落ち着かせる)
ウォーミングアップにかける時間は人それぞれで、1時間くらい割いている人もいます。普段の練習の前にいくつかのウォーミングアップメニューを試してみるとよいでしょう。また、ウォーミングアップには、強度を管理できる心拍計やパワーメーター使用することが理想です。
●バックナンバー「教えてハシケン先生」
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第2回 “上りやすい”フォームで走ろう!
第3回 ペダリングはタイミングが重要
第4回 ダンシングは“踏まずに乗せる”がポイント!
第5回 キツい坂道を楽に走るための呼吸法
第6回 “休めるダンシング”で急な上り坂も怖くない!
第7回 ラクに上れる!シフトチェンジの基本テクニック
第8回 腰が痛いと思ったら・・・1分ストレッチで筋肉をほぐす
第9回 首・肩のコリは30秒ストレッチで解消
第10回 お尻の痛みを解消する3つの方法
第11回 ひざ痛を予防するフォームとセッティング
第12回 努力いらずで楽に走れる“ながらエクササイズ”
第13回 座って寝て早くなる体幹トレーニング
第14回 いつもの階段で“ペダリング筋”を鍛える
第15回 “ながらエクササイズ”を実戦で確認する!