サイクルスポーツジャーナリストで、さらに国内トップクラスの強豪ヒルクライマーでもある “ハシケン先生”が、自転車がさらに楽しくなるように、乗り方のテクニックや愛車のカスタマイズ術を紹介する連載企画です。今回はつらくて苦手な人が多いヒルクライムを少しでも楽にするための軽量なクリンチャータイヤを6つ紹介します。
目次
タイヤが軽いと走りも軽い!
地面との唯一の接点でもあるタイヤは、自転車の走行性能に大きな影響を与えます。それだけにタイヤの性能をアップグレードするだけで、バイク全体の性能を高めることも可能です。タイヤに求められる主な性能には、「転がり抵抗の少なさ」、「グリップ性能」、「耐パンク性能」、「快適性」があります。ヒルクライム向きのタイヤには、これらに加えて「軽さ」が重要になってきます。重量が軽いと、踏み出しの軽さを実感しやすくなるからです。
3種類のタイヤの構造をおさらい
前回に続いて、ヒルクライム向きの機材カスタマイズを紹介します。前回は、低予算で気軽に「走りの軽さ」を手に入れられるアイテムとして、インナーチューブの具体的なモデルをピックアップしました。
今回は、ヒルクライム向きのタイヤを紹介しましょう。インナーチューブと同じく費用対効果の高いアイテムです。と、その前に、現在のロードタイヤの3つの構造と特長を簡単に復習しましょう。
クリンチャータイヤ
タイヤの中のインナーチューブにエアーを充填させることでタイヤを膨らませるタイプ。タイヤ自体に大きな裂傷などがない限り、パンクをしてもインナーチューブを交換するだけですぐに走行可能なので、メンテナンス性に優れています。現在、主流のタイヤ構造ですが、市販品としてクリンチャータイヤが登場する1990年代以前は、ロードバイクのタイヤの主流はチューブラーでした。
▶︎クリンチャータイヤの詳細はこちら
チューブラータイヤ
インナーチューブをタイヤ自体で包むようにして縫い付けるため、真円に近いタイヤ構造が特徴です。そのため、路面からの振動をタイヤ全体で吸収しやすく、しなやかな乗り心地になりやすいです。また、リム側の構造がシンプルなため、ホイールとセットで考えた場合に軽さのメリットがあります。一方、デメリットとしては、パンクの際にはタイヤごと交換する必要があるため、コストがかかります。また、タイヤ交換には、タイヤとリムを接着するために、リムテープやリムセメントが必要です。
▶︎チューブラータイヤの詳細はこちら。
チューブレスタイヤ
リムに直接タイヤを装着するタイプで、インナーチューブを持ちません。その分、走行抵抗が少なく、静粛性に優れる乗り心地の良さが魅力です。クリンチャータイヤのように、リム打ちパンクのリスクが低いこともメリットです。なお、現状多くのメーカーが採用している「チューブレスレディ」とは、基本構造はチューブレスと同じながら、タイヤの中にパンク防止剤のシーラント(溶液)を注入し、気密性を高めることを前提としたタイヤを指します。
▶︎チューブレスタイヤの詳細はこちら。
ヒルクライムにオススメの軽量クリンチャータイヤ6選
さて、3つのタイヤ構造を理解したところで、今回は現在もっとも需要のあるクリンチャータイヤの中から、ヒルクライム向きのモデルを紹介します。インナーチューブ同様にホイールの外周部にあたるタイヤは、物質的な重量(軽さ)による踏み出しの軽さを感じられます。
ただし、スペック重量だけに飛びつくのは賢くありません。どんなに軽くても、転がり抵抗が悪かったり、パンクリスクが高すぎたりするモデルでは本末転倒です。またヒルクライムといえど、路面を捉えるグリップ性能も欠かせません。その上で、ギリギリまで軽さを追求したモデルこそヒルクライム向きの高性能タイヤと言えるのです。
(以下2022年FRAME編集部により修正)
ミシュラン POWER タイムトライアル
ロードバイクの世界におけるクリンチャータイヤの普及に貢献した、フランスの総合タイヤメーカー「ミシュラン」。同社のロードレーシングタイヤの最高峰「POWER」シリーズの中でも極限まで「速さ」を追求したのがPOWER TTだ。転がり抵抗を改善するために新開発したコンパウンドを導入することで、クリンチャーながらチューブレスタイヤに肉薄する転がり抵抗の低さを得た。重量も23Cで180g、25Cで190gと軽量に仕上がっている。
パナレーサー AGILEST LIGHT(アジリスト ライト)
パナレーサーの最新にして最軽量のモデル。かつてヒルクライマーから人気を博した「GILLAR」の後継モデルにあたり、重量は23Cで160gと超軽量だ。耐パンクベルトを導入しながらも、同サイズの通常モデル「AGILEST」に対して20gの軽量化を実現している。さらに、新テクノロジーの「ZSG AGLIE コンパウンド」「Tough & Flex Super Belt」を採用することで、「GILLAR」から重量を増加させることなく転がり抵抗を軽減。一般的な25Cサイズも170gと超軽量だ。
ヴェロフレックス レコード(WO)
ヴェロフレックスが得意とするのは、クリンチャーながらチューブラーと似た特徴を持つ「オープンチューブラー」と呼ばれる種類のタイヤ。その中でも「レコード」は耐パンクベルトを排除することで135gという軽量性と低い転がり抵抗を得た決戦用タイヤだ。その実力は本物で、Mt.富士ヒルクライムの優勝者も使用していたほど。イタリアンブランドらしく、タイヤ一本一本が手作りである点も注目したい。
iRC ASPITE PRO (アスピーテ プロ) S-LIGHT
チューブレスタイヤが有名なiRCだが、「チューブレスに迫るクリンチャー」として生み出されたのがASPITE PRO S-LIGHTだ。大きな特徴は、プロ選手からも高い評価を得ているチューブレスタイヤFORMULA PROをベースとして新開発されたトレッドパターン。センターはスリックとすることで転がり抵抗を減らしつつ、サイドは鋭角なパターンが彫られることでコーナリングの性能が向上している。重量も25Cで200gと軽量。
ブリヂストン エクステンザ R1S
世界のタイヤメーカーであるブリヂストンが手がける、ロードレーシングシリーズの「エクステンザ」。ウェットコンディションでのグリップ力に定評があり、接地にねっちりとした安心感を生みつつも、軽快さのある走行感は最高峰のR1シリーズに共通する印象だ。中でも、R1Sは、23Cで145gとシリーズ最軽量を実現したヒルクライマー御用達モデルだ。タイヤ接地面をやや尖らせた独自の「ダブルクラウンアール」断面形状を採用し、接地抵抗を減らしている。また、高密度ケーシングで転がり抵抗を軽減している。
ピレリ P ゼロ ヴェロ TT
イタリアの老舗タイヤメーカーとして、モータースポーツの世界で高い実績を持つピレリ。その自転車用タイヤのフラッグシップが「P ゼロ ヴェロ」シリーズだ。中でも、耐パンクベルトを排して、軽さを追求した「P ゼロ ヴェロ TT」は、ヒルクライム性能に特化したモデルで、重量は23Cで165gと超軽量だ。独自のコンパウンド「スマートネットシリカ」が転がりのよさとグリップ性能を高め、ハイレベルなコントロール性能を有している。また、最新のワイドリムとの相性がよい25C(180g)もランナップする。
軽量タイヤ選びのポイント
近年のクリンチャータイヤは各社から豊富なラインナップが展開され、軽さを追求したヒルクライム向きの軽量タイヤだけでも十指に余ります。重量は200gを下回り、中には150gを切るモデルも存在します。耐パンクベルトを排して軽さを追求しているモデルも多いです。
同じ構造の商品を比べたとき、軽い方はコンパウンドやトレッドが薄く作られている傾向にあることを忘れないようにしましょう。そのことを理解した上で、軽量タイヤを選べば後悔はしないでしょう。
やはり、ヒルクライムではタイヤの軽さは走りの軽さに直結します。ヒルクライムを楽に速く走れるようになる、費用対効果の高い軽量タイヤにカスタマイズしてみましょう。
バックナンバー「教えてハシケン先生」
第8回 腰が痛いと思ったら・・・1分ストレッチで筋肉をほぐす